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ここ数年のユールズモン宝飾店のテレビCMは、ミノンをホスト、もとい男装の麗人として登場させ、メインターゲットである女性視聴者を骨抜きにするのが通例となっている。
が、今年の美少女剣士を起用した一連のCMでは、「全国大会の応援旗に描かれていたキャラのイメージに合わせる」流れが既に出来てしまっていた為、
「コレを……どうしろと?」
マントノン家から借りて来た応援旗にデカデカと描かれている、喉元に丸く開いた穴から顔を出すタイプの着ぐるみ姿の「巨大怪獣」ミノンのイラストを見つめながら、CM製作スタッフは呆然と佇んでいた。
「小さな男の子と特撮マニアは喜ぶかもしれないが、大人の女性がコレに胸をときめかせるとは思えない」
「でも、エーレ、コルティナ、パティを起用した他社CMとの相乗効果を上げるには、コレで行くしかないんだよ」
「一歩間違うと、熱狂的なミノンファンが暴動を起こすぞ」
このお洒落なイメージとは程遠いふざけた着ぐるみでミノンファンをがっかりさせない様にするにはどうすればいいのか、という超難題を悩み抜いた挙句、半ばヤケになって製作されたCMの内容は以下の通り。
人通りの少ない深夜の街。身なりのいい若い美女が、表通りを必死に駆けている。黒い帽子に黒いスーツに黒いサングラスという、非常に分かり易いステレオタイプの三人の悪党がその後を追う。
女はビルとビルの間の路地に駆け込むが、少し行った所で三方を壁に阻まれた行き止まりとなり、絶体絶命のピンチ。
壁を背に振りむく女。じりじりと迫る悪党共。
と、女は嵌めていた指輪を外し、悪党の方に放り投げる。
指輪が爆発し、濛々たる白煙と共に例の着ぐるみ姿の「巨大怪獣ミノン」が等身大で登場。両手を広げて猛獣の様な唸り声を上げる。ミノン本人の顔が着ぐるみの喉から出ているのが何とも間抜け。
この間抜けな怪獣へ「ふざけるな」とばかりに悪党その一が殴りかかる。しかし怪獣からカウンターの張り手を食らってしまい、路地を表通りまで吹っ飛ばされる悪党その一。
続いて悪党その二がナイフを片手に怪獣に襲いかかる。これに対し怪獣はくるっと一回転し、太く長い尻尾を相手の体にブチ当てる。勢い余って高々と吹っ飛び、そのまま子供向けギャグ漫画の様に、ビルの壁に体の形の穴を開けてめりこむ悪党その二。
最後に悪党その三が拳銃を抜いて怪獣を撃つ。が、もちろん特撮の怪獣にその手の攻撃は通用しない。怪獣は平然とした様子で、ズシン、ズシンと重々しい足音を立てて相手に近付くと、太くて長い尻尾を悪党その三の首にシュルシュルと巻き付ける。
次の瞬間、巻き付いた尻尾から高圧電流が流れ、体中に稲妻模様の光が浮かび上がり、激しく痙攣した後、尻尾から解放されてその場に倒れる悪党その三。
こうして三人の悪党が倒された後、二人仲良く腕を組んで路地裏から出て表通りを歩く女と怪獣。そこに、
「ユールズモンは貴女を守る怪獣を封じ込めたカプセル」
という訳の分からないテロップが出た後、怪獣着ぐるみのままのミノンがカメラ目線で微笑んで終了。
こうして一応、「全国大会の応援旗に描かれていたキャラのイメージに合わせる」、という最重要課題はクリアしたものの、
「お洒落な映像にしようと何とか頑張ったが、どう見ても子供向け怪獣ショーだよ、これ」
製作スタッフは視聴者の反応に戦々恐々としていた。
ところが、いよいよCMがオンエアされると、
「ミノン様の怪獣も素敵!」
「ミノン様の怪獣が入っている宝石なら、全財産はたいてでも買うわ!」
「て言うか、ミノン様をカプセルに閉じ込めて持ち歩きたい! で、好きな時に出したり入れたりするの!」
変な性癖に目覚めるファンが続出するほど大好評であり、
「自分達で作っておいて何だが、女心はよく分からん」
製作スタッフ一同は複雑な思いであったという。




