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車の運転席のドアが開き、中から剣を持った甲冑が出て来るのは、何とも言えないシュールな絵面であった。
ここまでされると、この映画を見ている観客の大半が、世界観とか整合性とか色々大切な事が、何もかもどうでもよくなっているのではないかと思われる。エーレの様な純粋なお子様は別として。
それでも、甲冑に追われる男子学生と女子学生は、あくまでも真面目な表情で湖の方に逃げ、気が付けば桟橋のある所まで来ていた。桟橋の突端には、ボートが一艘係留されている。
あのボートで湖に出てしまえば、金属の体を持つ甲冑は追って来られまい。泳ごうとしても重くて水に浮かばないし。
そう考えた二人は、傷みの激しい木の桟橋を渡って突端へ。
しかし残念な事に、そこにあったボートは船底に穴が開いているらしく、既に内部の半分以上が浸水しており、人が乗ったらすぐ沈没する事は間違いなかった。
振り返れば、甲冑は血塗られた剣を持って、二人の方にゆっくりと迫っている。なぜこういう時に、ワープを使ってやって来ないのかは謎である。人が見ていると、使えない決まりでもあるのだろうか。
「君一人だけでも逃げてくれ。僕は泳げないんだ」
男子学生が、漢らしくも情けない事を言うと、女子学生も、
「私も泳げないの。どうしましょう」
と、変な所で似た者同士だった。
意を決した男子学生は、ボートの中にあった二本のオールを拾い上げ、
「仕方ない、これで奴と戦おう」
その内の一本を女子学生に手渡す。
オールを構えた二人は、桟橋の上を、カシャン、カシャンと音を立ててやって来る甲冑を見据えた。
「行くぞ!」
二人は、甲冑の持つ剣が届かない距離から、つん、つん、と長いオールで相手の胴体を突っつき始め、甲冑がこちらに来るのを阻止するのに成功する。
甲冑は剣を振り回すものの、二本のオールで交互につんつん突っつかれては、分が悪いと見え、じりじりと後退せざるを得なくなった。
一見地味だが、剣に対抗するには、それ以上のリーチを持つ棒状のものが非常に有効なのである。棒を持っているのが複数人ならば、さらに有効性は倍加する。
しかし、仮にも甲冑の剣士が、ボートのオールでつんつん突っつかれている構図は、傍目には間抜けとしか言い様がない。
結局、甲冑はそのまま桟橋から追い出され、さらにオールを持った二人につんつん突っつき回され、今度は逆に自分の方が桟橋に追いやられてしまう。
形勢逆転、甲冑は二人につんつん突っつかれながら、じりじりと桟橋の突端まで追い詰められ、何一つ抵抗出来ぬまま、湖にドボン。
「何このお笑いコント」
一連の間抜けでお約束な展開に、見ていたコルティナも大満足。
この世界には、「もしそこに水があれば、お笑い芸人は必ず落ちなければならない」という、神の定め給うた暗黙のルールが存在するのだ。
この場合の神とは、もちろんお笑いの神の事である。




