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大好評を博したアウフヴェルツ社の「エーレマークⅡキャンペーン」について、
「つまりこれからの流れは、『全国大会の応援旗に描かれていたキャラのイメージに合わせる』で決まりですねー」
ララメンテ家のふわふわ魔女ことコルティナは、アトレビド社のCM企画会議の席上、自身の見解を高らかに宣言した。これまでに関わったCMをことごとくヒットさせているこの魔女を止められる奴はもういない。
このコルティナの見解に基づき、応援旗に描かれていた「八代目ふわふわ魔女」のキャライメージで製作されたテレビCMの内容は以下の通り。
暗幕を張りめぐらし、黒一色を背景にした演劇ホールの舞台中央、大きな金屏風の前に赤い毛氈で包まれた壇が置かれ、その上に紫色の座布団を敷いた高座が作られている。
高座の少し左方にはめくり台が立っており、そこに掛かっている縦長の名ビラには「八代目ふわふわ魔女」と大きく書かれている。普通、名ビラに書く芸名は「八代目」という代数表記を省くのだが、分かり易さを重視してあえて残した模様。
軽やかな三味線太鼓の出囃子と共に、紋付きの黒い羽織に灰色の袴姿で、トレードマークの黒いトンガリ帽子をかぶったコルティナが舞台左手から登場する。
途中経過をすっ飛ばし、映像はいきなり高座の上に正座しているコルティナが、新作落語を上演している場面へと飛ぶ。
そこで「八代目ふわふわ魔女」は実物を使わず、仕草だけでアトレビド社製のお菓子を食べている様子を表現し、
「この麩菓子、サクサクしてて、口の中でふわっと溶ける食感が何とも言えません」
「濃いお茶に合うねえ、このどら焼き。皮と餡の絶妙な甘さがたまらない」
「えびせんの塩味ってのは、どうも後を引く。一度食べ出したら、ついやめ時を見失うよ」
などと見事に演じ分けて見せた後で、本物の商品の宣伝映像に切り替わって終了となる。
特におちゃらける訳でもなく地味な絵面なのだが、何よりコルティナの食の演技が神懸っており、
「実際にその場にない筈の菓子が見えた様に錯覚した」
「動作の細部に至るまでこだわり抜き、それによって菓子一つ一つの味までリアルに伝わって来る」
「本場のハナシカに勝るとも劣らぬ究極の名人芸だ」
CMが放送されるや一般視聴者だけでなく、口うるさい演芸評論家達からも絶賛の嵐が巻き起こった。
「ハナシカでも十分食っていけそうだね、コルティナ」
「でも、コルティナがハナシカになっちゃったら、ウチの道場の客寄せ要員がいなくなるから困る」
「と言うか、ウチの道場がハナシカの一門と勘違いされませんように」
このおやつテロとも言うべきCMを見たララメンテ家の道場の仲間達は、アトレビド社製のお菓子を口にしながら、そんな事を危惧していたのだが。




