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アウフヴェルツ社の「エーレマークⅡキャンペーン」において、最初にエディリアの各家庭に放送されたテレビCMの内容は以下の通り。
コックピットと思しき青白く輝くデジタルなメカに囲まれた薄暗い空間の中、スリムな宇宙服に身を包んだエーレが、やや前傾姿勢で座席に座り、人型ロボットを動かすにはいささかシンプル過ぎるだろうと思われる二本のレバーに両手を掛けて、
「エーレマークⅡ、起動!」
叫ぶと同時に、エーレの姿にぴったり重なる形でエーレマークⅡの映像に切り替わり、すぐにカメラが引いて、宇宙空間をバックにしたその全身像が現れる。
腰に下げている二本の円筒を両手で取って、正面で×の字を描く様に振ると、円筒から赤い光が伸び、右手側が長剣、左手側が短剣となる。
エーレが試合でよくやる様に、エーレマークⅡが右の長剣を頭上に振りかぶりつつ、左の短剣を前に突き出した格好で構えると、カメラがぐるんと回ってその機体を背後から捉え、その前方遥か遠くから数十機はいるであろう敵の戦闘ロボの群れが、こちらに向かって飛んで来る様子が映し出される。
脚部と背中のジェットを噴射し、二剣を構えたまま敵集団に向かって突っ込んで行くエーレマークⅡ。
画面切り替わって、高速飛行中のエーレマークⅡを横スクロールで映すアングルへ。敵ロボが撃って来るレーザー光線の束をかいくぐりつつ、不規則な軌道を描きながら襲いかかる大量のミサイルを、二剣を駆使して破壊して行くエーレマークⅡ。
いよいよ敵陣に突入し、ライフル、バズーカ、剣、斧、鞭等の武器を構えた敵ロボを、ほぼ出会い頭で一撃の下に斬り伏せ、次々と撃破するエーレマークⅡ。
画面切り替わって、敵ロボの爆発によるたくさんの小さな丸い光が点滅する宇宙空間から、こちらに向かってエーレマークⅡが緩やかな螺旋軌道を描いて飛んで来る。一度画面下に全身が沈み、一拍置いてから上半身のアップが急浮上してぴたりと停止し、意味もなく目を光らせるエーレマークⅡ。
再びコックピット内部が映し出され、ヘルメットを脱いだエーレの金髪ツインテールが、ふぁさっ、とシャンプーのCMの様に宙を舞い、
「ちっちゃくても、最強の処理能力!」
極上の笑顔で決め台詞の後、宣伝商品であるパソコンの画面に切り替わって終了。
この「戦闘ロボ+天才美少女パイロット」という鉄板中の鉄板の組み合わせで、大きなお友達はもちろん、広い世代に亘って男性視聴者のハートはガッチリとつかまれたらしく、
「大好評につき、さらに『市街戦編』と『砂漠戦編』と『海中戦編』のCMを製作する事が決定しました」
あまり嬉しくない報告をエーレにもたらすエーヴィヒ。
「はあ、それは良かったですね」
気乗りしない様子を隠せないエーレ。基本、女の子はあまり戦闘ロボに興味がない。もっともエーレの場合、「ロボでなく生身で剣を振るわせて欲しかった」、という願望もあるのだが。
「玩具メーカーからは、『エーレマークⅡのプラモデルを出したい』、という申し出も来ています」
「もう、好きにしてください」
女の子はあまりプラモデルにも興味がない様子。
「さらに『劇場版エーレマークⅡ』の企画も進行中です」
「流石に、話が大きくなり過ぎていませんか? しかもあさっての方向に!」
「その際には、エーレさんも声優として参加して頂ければと」
「専門外です。いくら本人の役とはいえ」
「安心してください。エーレさん役の声優は、エーレさんに声が似ている本職の方を起用します」
「安心しました。つまり私は話題作りの為の、一瞬だけ映るモブの役ですね」
「いえ、エーレさんには他ならぬ、エーレマークⅡの声をやって頂こうかと」
「ロボットの方かい!」
色々とついていけなくなり、ついに声を荒げてしまうエーレ。それを見て、愛おしそうに微笑むエーヴィヒ。
実際の所、本人役は他人に任せて本人は別の役で登場しているややこしい映画は結構存在する。




