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「そんな訳で先日開催したVR体験会は、レングストン家の古参の役員の方々に大好評でした」
レングストン家の屋敷を訪れたエーヴィヒが、爽やかな笑顔で報告する。
「それはよかったですね。剣術に関してかなり保守的な考えを持つお歴々に認められたのなら、相当なものです」
作り笑顔を浮かべつつ、無難なコメントを返すエーレ。今日こそはこの変態のペースに巻き込まれまいと身構えているその様子が却ってこの変態を喜ばせていると薄々勘付いてはいるのだが。
「これでまた、レングストン家とアウフヴェルツ社との絆が一層深まりました」
「結構な事です。世界的不景気の昨今、お互いの利益となる様な協力体制を保持して行きたいですからね。もちろん、過度の馴れ合いにならぬ様に気をつける必要がありますが」
「過度の馴れ合いも結構な事だと思います」
「親しき仲にも礼儀あり、です。具体的に言うと、取引先の娘を自社の宣伝に起用すると称して、幼女扱いしたり、戦闘ロボットにしたり、面白半分やりたい放題はいかがなものかと」
「エーレさんには本当に感謝しています。おかげ様で今回の『エーレマークⅡ』キャンペーンも大好評で、この世界的不景気を乗り切る事が出来そうです。我々にとって、エーレさんは女神様と言っても過言ではありません」
「はあ」
仮面がはがれ、つい、ため息をつくちっちゃな女神様。
「もちろん、私個人にとってエーレさんは女神様以上の存在ですが」
臆面もなく言いきる変態。
「過分なお褒めを頂きありがとうございます。それが一体どんな化け物なのか想像出来ませんが」
「いえ、そういう意味ではなく、かけがえのない貴重な宝物の様な存在という事です」
変態度が上がってきたエーヴィヒ。
「女神より上の存在となると、洞窟の中で龍が守っている類のレアな宝物ですね。命が惜しければ変な欲を起こさず、龍も宝物もそっとしておくべきです」
内心、変態にちょっと怯えつつも、淡々とした口調で切り返すエーレ。
「私なら龍とは戦いません。何とかして龍を手懐けますね。そして、龍の許可を得て宝物を手に入れます」
龍をレングストン家の一族及び古参役員、宝物をエーレに置き換えて考えると、この変態が何を言いたいのかは明白である。
実際、レングストン家の一族及び古参役員は、もうエーヴィヒに手懐けられているも同然ではないか。
「役に立たない龍ですね」
毒を吐くちっちゃな宝物だった。




