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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十五章◆◆ 応援旗に描かれたキャラクターをCMに起用する商法について

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◆476◆

 マントノン家の前々当主を務めた老人が、現当主にして可愛い孫娘の人心掌握術に感心しつつも思い切りドン引きしていた頃、レングストン家に大きな発言力を持つ老害、もとい古参幹部クラスの老人達は、アウフヴェルツ社の変態ロリストーカー、もといエンジニアにしてやり手のビジネスマンに人心を掌握されようとしていた。


「本日はお忙しい中、アウフヴェルツ社にお越し頂き誠にありがとうございます。これより弊社で開発中の剣術トレーニング用の最新VR機器を紹介させて頂きます。さて、VRに関しては既に全国大会に出場する選手の方々の稽古に導入されている事もあり、皆様もおおよその事はご存じかと思われますが、それが具体的にどの様なものなのかは、まだイメージがつかみにくいのではないのでしょうか」


 アウフヴェルツ本社内の実験用スタジオに集められた老人達を前に、マイク片手に滔々と説明を開始するスーツ姿のエーヴィヒ。足腰を考慮して、老人達に座り心地のいい椅子を用意する気配りも忘れない。


「百聞は一見に如かず、です。細かい説明をさせて頂く前に、まずは実際にVR環境を体験してみてください」


 椅子に座っている老人達全員にヘッドセットを配布して装着させ、


「では映像をご覧ください」


 エーヴィヒが傍らに置いてあるパソコンのキーボードをカタカタと立ったまま操作すると、


「おお、映った」

「見事なもんじゃな、ちゃんと立体感も遠近感もある」

「ん? この光景は見覚えがあるぞ。改装する前の市民体育館か? ああ、懐かしいのう」


 ヘッドセットに出力されたリアルな映像に、子供の様にはしゃぎ出す老人達。人は視覚と聴覚を塞がれると、誰かに見られているという感覚が麻痺するのである。


「続きまして、CGモデルで作成されたVR剣士達による試合をご覧ください」


 エーヴィヒの言葉に続いて、老人達の眼前に防具を着けた二人のVR剣士が現れ、試合場中央で互いに礼の後、距離を取り剣を構えて対峙した。


「防具は古いタイプじゃな。ワシらが若かった頃に使っていたやつじゃ」

「旧市民体育館といい、古い防具といい、昔の全国大会を思い出すのう」

「ああ早いものじゃ。あれからもう数十年経ったのか。まだ昨日の事の様に覚えておるのに」


 眼前に広がったノスタルジー溢れる光景に刺激され、それだけでもう興奮が止まらない老人達。


 やがてVR剣士達による試合が始まると、


「もしや、あの剣士はワシか!?」

「もう一方の剣士は紛れもなく若い頃のワシじゃ! すると、これはあの時の決勝戦の再現か!」


 二人の老人が同時に立ちあがって素っ頓狂な声を上げる。


「はい、五十二年前の全国大会の決勝戦を、当時の映像記録を元に再現してみました。何分、データが少ないもので、そっくりそのまま再現するという訳には行きませんでしたが――」


「確かにかなり異なる所もあるが」

「ここまで再現出来るとは!」


 年甲斐もなくエキサイトする二人の老人。二人の頭の中は五十二年前にワープしているに違いない。


「この試合の他にも、今日お集まり頂いた皆様の昔の試合の再現モデルを作らせて頂きました。出来るだけ忠実に再現する努力は致しましたが、違和感を覚えられた事などありましたら、後でアンケートに書いて頂ければ幸いです。今後の研究開発に役立てさせて頂き――」


 エーヴィヒから自分達の若かりし頃の試合も再現してくれていると聞き、一気にボルテージが上がる他の老人達。アウフヴェルツ社とエーヴィヒへの好感度は急上昇。


 老人の興味を惹くには懐かしい思い出がベターである。孫には敵わないが。

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