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前回のレングストン家の大会で優勝した際には「巨大怪獣」ミノンに肩車され、そして今回のララメンテ家の大会で優勝した際には「八代目ふわふわ魔女」コルティナにおんぶされていた、ちっちゃなエーレ。
「ライバル達の友情によって、エーレさんの可愛らしさが引き立つ素晴らしい演出でしたね。協力して頂いたミノンさんとコルティナさんには、ただただ感謝の念しかありません」
ララメンテ家の大会の翌日の晩、レングストン家の屋敷を訪れたエーヴィヒが、並べ師よろしく肩車とおんぶの写真が掲載された大量のスポーツ新聞を応接間のテーブルの上に所狭しと並べながら、実に爽やかな笑顔をエーレ本人に向ける。
「本当は、私の子供っぽさを引き立てる演出だと言いたいのですね、分かります」
エーヴィヒの心ない行動に内心イラッとしつつも、「キレたら向こうの思うツボだ」、とテーブルを引っくり返すのを我慢するエーレ。
「特にコルティナさんにおんぶされている写真では、エーレさんの手にアトレビド社製のお菓子を持たせるという、宣伝を兼ねた見事な演出になっていますし」
「まさか急に手渡されたお菓子を地面に叩きつけたり、コルティナの頭上に中身をぶちまける訳にもいかず、仕方なくそのまま持っていただけです。結果的に、私が幼く見える絵面にされてしまいましたが」
「そんな訳で、我々アウフヴェルツ社としても、商売上手のコルティナさんに負けてはいられません」
「いや、変な所で張り合わないでください。アレは商売上手というより、タダの愉快犯ですから」
「近日中に『エーレマークⅡ』キャンペーンを大々的に展開する予定です。既にキャラクターグッズは量産体制に入っています」
「はあ、そうですか。大変ですね」
言葉に心がこもっていないエーレ。
「つきましては、早急にテレビCMの製作に入ります。お忙しい所申し訳ありませんが、ご協力の程よろしくお願いします」
「はい。大会中、アウフヴェルツ社さんに色々ご協力して頂いた事を思えば、当然です」
表情がややうつろになって来たエーレ。
「CMの内容は、3DCGの戦闘ロボ『エーレマークⅡ』が、宇宙空間を自由自在に飛び回りながら、敵の戦闘ロボを次々と倒して行くというものです」
「去年約束して頂いた、『剣士としての要素を取り入れた冒険活劇風のCM』を撮る、というお話はどうなったんでしょうか」
聞いても無駄だと分かっていながらも、一応聞くだけ聞いてみるエーレ。
「没になりました。その代わり、『エーレマークⅡ』の使用する武器が二本の剣という事で」
「ああ、それなら一応剣士ですね」
あっさり流されつつも、剣士としての要素が残っている事にホッとするエーレ。
「製作の途中で、武器がレーザー光線やロケットランチャーに変更される可能性もありますが」
「ぜひ、剣でお願いします」
エーレ、ちょっと泣きそう。
「では、出来るだけエーレさんのご希望に沿える様に取り計らいますね」
くすっ、と笑うエーヴィヒ。
そんなエーヴィヒの態度にイラつき、
「さっきから私を困らせて、その反応を楽しんでませんか!?」
と、テーブルを、バンッ、と叩いて怒鳴ってやりたいが、それをやったら向こうの思うツボなのでグッと我慢するエーレ。
そんなエーレの反応も愛おしげに見守るエーヴィヒ。
そういう事ばかりしている飼い主はペットに嫌われるので注意。




