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再びパティを地下室まで連行して、今度はきちんと扉の鍵を掛けてから書斎に戻り、
「ミノンも健闘しましたが、『ホームのコルティナ』には今一歩及びませんでした。一本気で戦闘パターンを読まれ易いあの子は、もっとトリッキーな戦い方についても修練すべきでしょう」
何事もなかったかの様に、今日の大会について報告する孫娘シェルシェと、
「トリッキーな戦い方なら、むしろパティの十八番だな。あの子とコルティナが戦ったら、一体どんな展開になるやら」
監禁されたパティの行く末を案じつつ、「そろそろ許してやったらどうだ」、と中々言い出せない祖父クペ。
「その夢のカードの実現は、パティが一般の部に上がる五年後まで待たなければなりませんね。もっともその時までに一般の部が、気軽に他家へ遠征出来る状況になっていればの話ですが」
「難しい所だが、今日の大会の盛り上がり具合から考えても、多くの観客達がその状況を望んでいるのは間違いない」
「さりとて、学生の大会の様に選手団を派遣して、本格的な三つ巴の抗争に突入するのも洒落になりません。マントノン家としては、『他家からの遠征は受け入れるが、こちらからは積極的に遠征しない』、という専守防衛路線で行くつもりです」
「それでファンも満足だろう。彼らが求めているのは、エーレとコルティナという二人のスター剣士の活躍であって、御三家間の優劣を決める争いではない」
「ふふふ。主催者側としても、三つの大会にそれぞれエーレとコルティナが出場して、興行収入を確保してくれるのならば、誰も文句は言いません。私とて文句は言いませんが」
シェルシェは一旦言葉を切って、
「『商売としての武芸』という制約を無視して、誰もが自由に他流派の剣士と戦えたなら、と、つい考えてしまいます」
寂しそうに微笑んだ。
「その『誰もが』の中には、『現当主』も含まれるのだろうな」
この六年間、自分と同じ年の二人のライバルが、その仲間達と共に自由に他流派の剣士と戦っているのを、遠巻きに眺める事しか出来なかった孫娘の心中を慮るおじいちゃま。
「『前々当主』を含めても構いませんよ、おじい様」
そんな優しいおじいちゃまを他流派に突撃させる気満々の孫娘。




