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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十四章◆◆ 圧倒的な才能と最新鋭の技術と天賦の洞察力との三つ巴戦について

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468/638

◆468◆

 会場を出る前、選手控室で優勝者エーレに、

 

「この前のレングストン家の大会で、エーレはミノンに肩車された状態で記者団とやりとりしてたよねー?」


 あまり剣術と関係ない事を質問する準優勝者コルティナ。そのふわふわとした表情と口調からは、六連覇を逃した事に対する無念などこれっぽっちも感じられない。


「あの時はパティの襲撃から身を守る為に、やむなくミノンの上に避難させてもらったのよ」


 質問の意図が見えぬまま、一応普通に答えるエーレ。その内容はあまり普通ではないが。


「今回は私がエーレをおんぶしてあげようかー? きっといい絵になるよー。『大会で全力を出し切った感』が出てー」


「『歩き疲れて親に背負われた子供』にされる予感しかしないんだけど」


 自分をよく知っているエーレ。


「やっぱり、肩車の方がいいー?」


「いや、アレはミノンの背が高いから有効な策であって、あなたに肩車してもらっても、パティの手は難なく私の体に届くから意味無いし」


「じゃあ、エーレが私の肩の上に立つのはー?」


「組体操やってるんじゃないんだから」


 そこに当のミノンも会話へ加わり、


「妹がいつもご迷惑をおかけしてすみません。ですが今回は大丈夫です。姉が自分の手とパティの手を手錠で繋いでいますから」


 極秘情報を二人にそっと教えてくれた。


「手錠?」

「刑事が犯人を護送する時、逃げない様にするアレー?」


 目を丸くするエーレと面白がるコルティナ。


「はい、シェルシェ自ら責任を持って、パティを家まで連行する予定です。ちなみに手錠は、警察で実際に使用されている本物を借りて来ました」


「……ずいぶん本格的ね」

「警察で剣術の指導をしてるマントノン家ならではの粋な計らいだねー」


「はい。ですから、今日、エーレさんは何も心配する事はありません」


 ドヤ顔で保証するミノン。盛大にフラグを立てたとも言う。


 その後、会場の外に出たエーレは、待ち構えていた記者団に囲まれて質問攻めに遭うも、


「この日の為に、アウフヴェルツ社のご協力の下、コルティナさんを初めとするララメンテ家の主だった選手の方々の試合のデータを徹底的に分析し、選手一同、それに基づいた稽古を限られた期間の中で繰り返し行って来ました。決して私一人の力で優勝した訳ではなく、多くの人に支えられての勝利だと思っています」


 変態パティに襲撃される心配がないとあって、終始落ち着いた態度でそれに応じる事が出来た。


「一区切り付いたら、コルティナさんもあの輪の中に加わりませんか? 宣伝とマスコミへのサービスを兼ねて」


 少し離れた所で、ミノンがコルティナにそう提案すると、


「うふふ、もう少ししたら、スペシャルゲストが来るからねー」


 何やら楽しそうに予言をするコルティナ。


「はて、聞いてませんが、一体誰です?」


「ミノンとエーレが、絶対に来ないと思ってる子だよー」


 そう言われて鈍いミノンも流石に気付き、周囲を素早く見回した。


 と、遥か向こうから獣の様に素早くこちらに向かって来る人影を察知。


「警察の手錠を外したのか、パティ!」


「手錠抜けは『大道芸人』がよくやる演目の一つだからねー」


「ご協力感謝します、コルティナさん」


 すぐさま、その人影に向かって駆けだすミノン。


 ミノンに気付き、何とかすり抜けようと巧みに軌道を変える「大道芸人」パティ。


 巨体に似合わない素早いフットワークで、パティの変化に対応する「巨大怪獣」ミノン。


 結果、「巨大怪獣」ミノンが横にまっすぐ伸ばした右腕に、首から突っ込んですっ転ぶ「大道芸人」パティ。


 倒れて動かなくなった「大道芸人」パティを片手で起こして、ひょい、と背負い、おそらく氷の微笑を浮かべて待っているであろう「不死身で無敵の殺人鬼」シェルシェの元へ、のっしのっしと歩き出す「巨大怪獣」ミノン。


 そんなマントノン家の姉妹のドタバタ劇を満足げに見た後で、


「やっぱり、『大道芸人』の二つ名はダテじゃないねー、パティ。君の遺志はこの『八代目ふわふわ魔女』が立派に継いであげるからー」


 記者団に取り巻かれているエーレの元へ、ふわふわと歩いて行くコルティナ。


 この直後に記者団の前でコルティナに、ひょい、と背負われ、せっかく作り上げた大人っぽい雰囲気を台無しにされるとはつゆ知らぬちっちゃなエーレ。

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