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六年目にしてようやく、ララメンテ家の大会におけるラスボス「ホームのコルティナ」を討伐した「エーレマークⅡ」は、レングストン家の仲間達の元に戻るや熱烈な祝福を受け、
「ついにやったわね、エーレマークⅡ!」
「私達の流派の誇りよ、エーレマークⅡ!」
「六年間、この時が来るのを待ってたわ、エーレマークⅡ!」
あたかもバーゲンセール会場でおばちゃん達が全力で奪い合う服の様にもみくちゃにされていた。
「あなた達まで『エーレマークⅡ』呼ばわりは勘弁して!」
もみくちゃにされながら発したエーレの抗議の声は、もはや暴徒と化した仲間達の耳には届かない。唯一助けてくれそうな親友ティーフも、感激のあまり棒立ちに突っ立って号泣している始末。
ようやく暴徒の騒乱が沈静化した後、表彰式、閉会式と続き、ついに「エーレマークⅡ」による優勝インタビューが始まった。
「過去六年間のララメンテ家の大会においてずっと無敗だったコルティナさん、いわゆる『ホームのコルティナ』に勝つ事が出来、非常に嬉しく思っています。皆さんもご承知の通り、決して楽に勝てる相手ではなく、最後の最後まで気が抜けない、本当に紙一重の勝利でした。今ここに立ってインタビューを受けているのが、私でなくコルティナさんだったとしても全然おかしくはありません」
凛としたちっちゃい体に落ち着き払った口調で語る「エーレマークⅡ」。しかし、その表情は最強のライバルに打ち勝った喜びの色を隠せない。
「いやー、やっぱり優勝インタビューは、ああじゃないとね」
「地味でも真面目に話した方が、胸にグッと来るよ」
「コルティナ、聞いてる? 私達が大会で望んでるのは、ああいう、いかにもスポーツマンシップな感動だから」
剣術に対して常に真摯な態度をとっているエーレをダシにして、剣術を含む人生全てがふわふわなコルティナに説教を試みるララメンテ家の選手達。
「広告業界で昔からよく言われてるんだけどねー、美人と子供と動物には勝てないよー。『エーレマークⅡ』はその三つの要素を全部揃えてるから、皆幻惑されてるだけじゃないかなー」
そんなありがたい説教を、どこ行く風とふわふわ受け流すコルティナ。
「そりゃ、可愛い小動物みたいな生き物だけど」
「そんな可愛い小動物が一生懸命インタビューに答えてたら、胸キュンだけど」
「あー、ウチにも一つ欲しいわ。ああいう可愛い小動物」
可愛い小動物エーレに幻惑されまくっているララメンテ家の皆さん。
「ああいう卑怯なまでに可愛い小動物は、そこにいるだけでお客さんを喜ばせられるけど、私みたいなごく普通の一般人は、知恵を絞って作り上げた『芸』で勝負するしかないんだよー」
「勝負するポイントが思いっきりズレている様な気がするんだけど。それと、あんたを『一般人』って言うのは、かなり無理があるわ」
「こうして高いお金を払って、わざわざ会場まで足を運んで来てくれたお客さんが帰り際に、『あー、今日ここに来て良かった』、と満足してくれて初めて、この手のイベントは成功したと言えるのー。単に、『チケット代は回収した。後は野となれ山となれ』、って思ってるようじゃ、ダメだねー」
「それ、まんまウチの経営陣じゃん」
「今頃、スタッフ用控室で酒盛りの真っ最中だろうな」
「皆ベロンベロンに酔っぱらって、誰が優勝したのかすら理解出来てないかも」
「そんな訳で、最後にちょっと小ネタを仕込んでおきましたー。本当は私こと『八代目ふわふわ魔女』が優勝インタビューで使いたかった仕掛けなんだけどー、『エーレマークⅡ』に譲る事にしまーす」
「ちょっと待て。何をやらかすつもり?」
「うふふー、見てのお楽しみー」
仲間達の心配をよそに、共に稽古に励んだ仲間と今日流派を超えて戦った相手への敬意と共に、自身の優勝の喜びを語ったエーレの優勝インタビューが終わり、観客席からは万雷の拍手が巻き起こる。
「よし、今だー!」
そのタイミングを逃さず、コルティナが右手をふわっと上げて合図すると、観客席のララメンテ家の応援団が今まで掲げていた、
「えー、お笑いを一席」
と書かれているふざけた横断幕が、素早く引っ繰り返され、
「おあとがよろしいようで」
という、さらにふざけた文章に入れ替わった。
これはハナシカが噺を終える際の決まり文句の一つで、「次の出演者の準備が出来た様です」、という意味である。
エーレによる感動的な優勝インタビューが、この一文で一席のお笑いにすり替えられてしまい、不意を突かれた観客達から大きな笑いが湧き上がる。
「うむ、大成功ー!」
一人はしゃぐ「八代目ふわふわ魔女」ことコルティナに対し、
「いいのか、コレ。流石にレングストン家から苦情来ないか」
すごく不安になる仲間達。
「そーだねー。トリをとる、つまり最後の出演者となるハナシカが、『おあとがよろしいようで』、なんて矛盾してるだろ、ってツッコミが入るかもー」
「違う、心配してるのはそこじゃない」
何やら揉めているララメンテ家の選手達をよそに、当のエーレはふざけた横断幕を見上げ、
「……ツッコんだら負けね」
作り笑顔でスルーを決め込んでいた。
ツッコミ体質の人にとって、ツッコめないのは結構辛いものである。




