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いつもコルティナのフリーダムな言動に振り回されているララメンテ家の仲間達も、そのホームの大会における不敗伝説の終焉を目の当たりにして、少なからずショックを受けていた。
「やっぱり何だかんだ言って、心のどこかで『八代目ふわふわ魔女』を頼りにしてたんだなあ」
「実際、ウチの流派の守り神だもんね。『ホームのコルティナ』はずっと無敵でいて欲しい、って心のどこかで強く望んでたのは認める」
「でもそれを差し引いても、あのおちゃらけた優勝インタビューだけはやめて欲しい」
ショックを受けつつも最後はキッチリ落とす事を忘れない仲間達。
そのコルティナがエーレとの長い抱擁を終え、仲間達の元へふわふわとした足取りで戻って来る。
何と言葉をかけようかと、皆が少し戸惑っていると、
「えーん、イケメンエリート彼氏持ちのリア充に負けちゃったー」
その戸惑いを無駄にする、通常運転のコルティナだった。
「やめろ。そう言われると、こっちまで悲しくなって来る」
「まあ、仕方ないよ。あんなに可愛い生き物を男が放っておく訳ないもん」
「って言うか、六連覇を阻止されて戻って来て、第一声がそれか」
つられて通常運転に戻る仲間達。
「やっぱり、恋する女の子って無敵だねー。特にあの二人は一つの目標に向かって力を合わせる溺愛とツンデレのバカップルだから、流石の『八代目ふわふわ魔女』もお手上げだよー」
「その目標って、ウチの大会であんたを倒す事だよね」
「そう、エーヴィヒさんに夜の大改造を施された『エーレマークⅡ』は、愛しいご主人様の為に、哀れな独り身の私をボコボコにした挙句、今晩あたりは二人で朝まで合体変形を繰り返して互いの愛をー」
「頼むから普通の言葉でしゃべれ」
「エーヴィヒさんの執念のデータ分析を基に、エーレが私の攻撃を逆手に取るカウンターのパターンをほぼ完成させてたんだよー。戦ってる間中、エーレの背後にエーヴィヒさんの姿が見えてたねー。そしてイケメンスマイルで爽やかにこう言うのー、『私の愛犬は凶暴です』」
「ごめん、途中からまた分からなくなった」
「一言で言うと、私はエーレ、エーヴィヒ組とのデータ分析勝負に負けたんだよー」
稀代の分析魔が、その得意分野での敗北をあっさりと認めた。
「科学の勝利か」
「愛の勝利だよー。あの二人に勝つ為には、こっちも彼氏を作らないとねー」
「何その飛躍的な結論」
「マントノン家のヴォルフ君を、ウチで預からせてもらえないかなー」
「やめて、マントノン家が全力で奪回作戦を展開した挙句、ウチが滅ぼされる」
「古代神話みたいでロマンチックだねー。巨大な木馬の中から真剣を持ったシェルシェが現れて、大虐殺が始まりそー」
「神話じゃなくて、スプラッタホラーだそれは」
とりとめのないバカ話に呆れつつも、このふわふわお嬢様のマイペースぶりを見ていると、なぜか救われた気分になって来る仲間達。
しかし、コルティナは不意に表情を曇らせて言う。
「でも、これが高校生としての最後の大会だからね。悔いが残らないと言えば嘘になるよ」
「コルティナ……」
そんなコルティナを見て、少しトーンを落とす仲間達。
「最後の優勝インタビューは、とっておきのネタでドッカンドッカン笑いを取りたかったから……」
「やっぱり、それがオチか!」
「分かってたけどさ! 分かってたけど、ちょっと同情した私達の気持ちを返せ!」
「大会六連覇より、優勝インタビューで笑いを取る方が大事なのか、アンタは!」
トーンを元に戻した笑顔の仲間達からお約束のツッコミを入れられながら、「八代目ふわふわ魔女」はふわふわと微笑んでいた。




