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コルティナの六連覇が懸った決勝戦、延長戦に入って流石にハラハラして来たのか、
「もう、優勝インタビューでどれだけおちゃらけようと構わないから! 全力で行けー、『八代目』!」
と、子供をお菓子で釣るが如きなりふり構わぬ応援を始めるララメンテ家の仲間達。
もちろん、そんな声援があろうとなかろうと「八代目ふわふわ魔女」ことコルティナは、いつものふわふわなマイペースを乱さず、剣をふわふわと中段に構えてエーレをふわふわと待ち受ける。
一方、「エーレマークⅡ」こと可愛い小動物は、左の短剣を前に突き出し、右の長剣を頭上に大きく振りかぶって構え、日和ったララメンテ家の選手達に代わって、このやりたい放題なふわふわ魔女の優勝インタビューを阻止せんと、付け入る隙を抜け目なく窺っている。
時間無制限、一撃が決まればそこで終わるこの勝負、両者共に大きな動きはないものの、観戦している側にもその一触即発の緊張感はひしひしと伝わって来た。
観客席のあちこちで右に左に大きく振られていた応援旗が、まるで風がやんだ様にぴたりと止まり、熱狂的な歓声も次第に静寂に取って代わって行く。
延長戦開始から三分経った頃には、微かに残る小さなざわめきだけを残して会場はほぼ静まり返っていた。
「エーレが攻めあぐねている印象ですね」
そんな小さなざわめきの一つ、観客席のシェルシェが隣のパティに感想を述べる。
「『ホームのコルティナ』相手では無理もありません。どう打っても先読みされてしまうでしょうから」
防護マスクの下の必死なエーレの表情を双眼鏡で凝視したまま、パティが答える。
「コルティナも、先程の見事な一本でエーレに警戒させてしまってから、攻めの一手が見えなくなってしまった様です」
「お互いに、相手の心の緊張の糸が緩む瞬間を狙っているのでしょう」
「ふふふ。だとすると、コルティナが有利ですね。最初から糸が緩んでますから、これ以上緩み様がありません」
「ですが今回コルティナさんは、いつもより心に『欲』があるはずです。そこが急所かもしれません」
「ララメンテ家の大会六連覇の事ですか? コルティナはそんな俗っぽい名誉にこだわるタイプはありませんよ、パティ」
「いえ、優勝インタビューの方です」
「優勝インタビュー?」
「『八代目ふわふわ魔女』といい、あの応援旗に描かれたハナシカのイラストといい、これだけの前準備をしているコルティナさんは、今回の優勝インタビューにいつも以上に力を入れて来るはずです」
「その心理は私にはちょっと分かりかねます」
「私には分かります、お姉様。エンターテイナーとはそういうものです」
「大道芸人」の称号を持つパティは双眼鏡を下ろすと、「不死身で無敵の殺人鬼」の称号を持つシェルシェの方を見て、自嘲気味に微笑んだ。
「仮にあなたの言う通りだとしたら、面白い事になりそうですね」
自分とそっくりな顔立ちをしているものの、自分とは性格の異なる妹を見つめながら、微笑み返すシェルシェ。
試合場に目を戻せば、エーレとコルティナはまだ睨み合ったまま動きがない。
しかし試合開始から約八分が経過した頃、エーレが突如前に飛び出し、右の長剣を振り下ろしてコルティナの左手を狙った。
コルティナは予期していたかの様に、その一撃をふわっと外に払ってから、一歩前に踏み出し、エーレの喉元を狙ってふわっと突きを入れる。
が、エーレは左の短剣でその突きを打ち落とし、右の長剣でコルティナの頭部を素早く打った。
エーレがそのままぴょんぴょんと飛び跳ねて後退し、コルティナから大きく距離を取って二剣を構え直した所で、一本が認められて試合終了。
これまで無敗だった「ホームのコルティナ」の六連覇を阻止する形で、エーレの優勝が確定する。
長い静寂を破って余りある大歓声が再び会場に湧き起り、観客席のそこかしこで「エーレマークⅡ」の応援旗が乱舞する。
「エーレマークⅡ! エーレマークⅡ!」
これほどの喧騒の中でも「エーレマークⅡ」コールがはっきり聞き取れる。
試合場中央では試合を終えたエーレとコルティナが、互いの健闘を称えるべく防護マスクを外して抱き合い、
「残念、優勝インタビューの為にとっておきのネタを用意してたのにー。ツンデレ美少女剣士とイケメンビジネスマンとの溺愛ラブコメ劇場とかー」
「そんなモン用意するなあっ!」
この大一番の結末に相応しくない、しょうもない事を言い合っていた。




