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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十四章◆◆ 圧倒的な才能と最新鋭の技術と天賦の洞察力との三つ巴戦について

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463/638

◆463◆

 「エーレマークⅡ」対「八代目ふわふわ魔女」という、科学と魔術が意味もなく交差する感じの決勝戦を前にして、


「エーレマークⅡ! エーレマークⅡ!」


 名前をひたすら連呼する、訓練されたエーレファンに対し、


「待ってました!」

「ふわふわになーれ!」

「麩菓子ー!」

「優勝インタビュー楽しみにしてるぞー、八代目ー!」


 自分の好きな様に応援する、まとまりのなさによってある意味まとまっているとも言えるコルティナファン。


 それぞれのファンの熱い声援が飛び交う中、二人の選手は試合場中央に進み出て互いに礼を済ませ、距離を取って対峙する。


 左手の短剣を前に突き出し、右手の長剣を振りかぶるエーレに対し、ふわふわと剣を中段に構えるコルティナという、お馴染みの構図から試合が始まった。


 エーレは慎重に間合いを詰め、突き出した左の短剣で相手の剣先を軽く弾きつつ、コルティナの様子を窺っているが、コルティナはこれに応じようとせず、弾かれた剣をまたふわふわと元の位置に戻すだけ。


 見方によっては、遊んでもらおうとして前足で、ちょい、ちょい、とちょっかいをかける子犬と、大人の余裕で取り合わず、子犬の好きな様にさせている成犬の様にも見える。


 そんな遊んでくれない成犬に対し、ついに子犬が実力行使に打って出る。


 力強く前に踏み出すと同時に、振りかぶっていた右の長剣を鋭く相手の頭上に落とすエーレ。が、コルティナは剣をふわっと傾けてこれを阻止。


 それをきっかけにして、エーレの二剣による複雑かつ荒々しいラッシュが開始され、この子犬改め戦闘ロボ「エーレマークⅡ」への変貌ぶりに、観客達も魅了されて行く。


 しかし成犬改め「八代目ふわふわ魔女」もさるもの、あらゆる方向から絶え間なく打ち込まれる攻撃をふわふわとした最小限の動きでことごとく防御、その名人芸は観客達をさらなる魅了へと誘う。


 このめまぐるしい攻防が二十秒程続き、最後は鍔迫り合いになった状態からエーレが相手を、どん、と突き飛ばす様にして離脱、実際は突き飛ばしたつもりがむしろ反動でエーレが突き飛ばされる格好になっていたのだが、とにかく両者距離を取っての対峙に戻る。あれだけの激しい動きにも拘わらず、再び短剣を前に長剣を頭上に構えたエーレに疲れた様子は見られない。


 突き飛ばされたコルティナも、ちょっと後退しただけで、すぐにふわっと体勢を戻してふわっと中段に剣を構え直す。デパートの屋上で風にゆらぐ「大売り出し」と書かれたアドバルーンの様に。


「互角ってか、膠着状態だな」

「どっちも一本取れないまま、延長に突入するかも」


 そんな風に観客達が長期戦を予想し始めた頃、不意にエーレが、ぴょん、と前に飛び出した。

 

 これに対し、コルティナが待ってましたとばかりに、ちょい、と剣を突き出し、エーレの喉元を狙う。


 が、エーレは短剣で弾く様にしてコルティナの剣の直線的な軌道をそらしつつ、逆に長剣でコルティナの喉元めがけて突きをブチ込んだ。


 突き対突き。


 互いの剣がすれ違い、次の瞬間、コルティナの上体が大きく後ろにのけぞった。


 ふわふわふわ、とよろめきつつ後退する「八代目ふわふわ魔女」と、突いた反動を利用してすぐ立ち止まり、その場で二剣を構え直す「エーレマークⅡ」。


 もちろん、文句なくエーレの一本が認められ、観客席から大きな歓声が湧き上がる。


 その歓声が鳴りやまぬ中、両者初期位置に戻って試合が再開されるが、エーレはこの一本で満足せず、じりじりと間合いを詰めて二本目を狙いに行く模様。


 エーレらしい戦い方だと観客達が感心していると、不意にコルティナがふわっと前に軽く踏み出して、ふわっとエーレの頭部を真っ向から打ち据えた。


 先程の派手な突き対突きのクロスカウンターに比べると、わずかな隙を狙い澄まして虚を突いた、このあっけない一本に、


「あの『エーレマークⅡ』が、まったく反応出来なかったぞ」

「『八代目』の『間』の取り方が絶妙過ぎる」


 一瞬大きくどよめいた後、「八代目ふわふわ魔女」の名人芸に拍手する観客達。


 その後両者一本も取れぬまま、試合は延長戦に突入する。

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