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三年ぶりの御三家令嬢対決も、残すところ後一試合。
観客席のそこかしこでは、キャッチコピーも含めキャラ設定がほぼ統一されている「エーレマークⅡ」と、まだ登場したばかりでキャラが固まっていない「八代目ふわふわ魔女」との大小様々な応援旗が勢い良くはためいており、さながら暴風雨に見舞われている南の島の様。
そんな中、レングストン家の陣営では既に敗れ去った仲間達が、これから決勝戦に臨むエーレを激励している。
「頑張れ! 高校生として最後の公式試合だよ!」
「もっとも、エーレは中学生、いや小学生でも十分通る位可愛いけど!」
「いつまでもちっちゃくて可愛いエーレでいてね!」
「断る!」
激励と言うより、下校中に見つけた子猫を、「きゃー、可愛い!」、と取り囲む女子高生のノリになっている仲間達を一喝するちっちゃなエーレマークⅡ。
「もう公式試合に出る事もない私の分まで戦って来てくれ。『ホームのコルティナ』は手強いけど、エーレなら勝てる」
仲間達の迷惑なノリに染まらず、真面目にエーレを激励するティーフ。見た目は大柄な女の子、中身は涙もろい熱血漢。
「ありがとう。高校生活最後の思い出は、魔女狩りでシめる事にするわ」
ティーフに笑って見せ、ララメンテ家の陣営の方を眺めやるエーレ。どうやら向こうでも、決勝戦に臨むコルティナへの激励が行われている様子である。
「試合は頑張って。でも優勝インタビューは頑張らなくていい」
「高校生として最後の公式戦なんだし、少しは真面目になろうよ、ね」
「ここで優勝すれば、ウチの大会の中高合わせて六連覇の快挙だよ。そんな快挙を成し遂げた人が、『えー、お笑いを一席』なんてやらかした日には、『六連覇とは何だったのか』って話になるから」
実は激励と言うより、警告が行われていたのだが。
「六連覇なんて意味ないよー。常に目の前の勝負に全力を尽くすだけー」
ふわふわと返すコルティナ。決勝戦を前にいつものマイペースぶりは健在。
「それにみんな優勝インタビューの事ばかり気にしてるけどー、相手はあの『エーレマークⅡ』だからねー。そう簡単には勝たせてくれないよー」
防護マスクをかぶり、コルティナがふわふわと立ち上がる。
「まあ、確かにそうだけど」
「だから、まずは目の前の勝負に全力を尽くすねー」
そう言って、コルティナが観客席に向かって剣を天高くふわふわと振り上げると、それを合図に、「八代目ふわふわ魔女」の大きな応援旗を掲げていたララメンテ家応援団が、他に用意していた横断幕を一気に広げて提示した。
そこには大きな字で、
「えー、お笑いを一席」
と書かれている。
観客席のあちこちから湧き上がる笑い声を聞きながら、
「うんうん、これで勝負は互角だねー」
満足げに頷く八代目。
「お前は一体何と戦ってるんだよ」
もちろん仲間達からのツッコミはスルー。




