◆461◆
未だ熱狂収まらず、怪獣と魔女のイラストが描かれた無数の応援旗が観客席のあちこちに翻る中、準決勝戦を終えた「巨大怪獣」ミノンと「八代目ふわふわ魔女」コルティナは、互いの健闘を称えるべく、試合場中央で抱き合った。
「完敗です。私のリズムが全て見抜かれていました」
悔しそうな反面、どこか嬉しそうでもある複雑な表情のミノン。例えるなら、誰も解けないだろうと思いながら作ったカルトな問題を、同好のマニアにあっさり解かれたクイズ作成者の様。
「うふふ、ダテに『八代目』は襲名してませんよー」
何がどうダテなのか、一般人にはさっぱり分からない事を言うコルティナ。マニア同士の会話は通訳が必要である。
「元の曲もご存じでしたか」
「ハナシカが高座に上がる時に演奏される、『出囃子』だよねー」
「流石は『八代目』。正解です」
軽くため息をついて、ララメンテ家の応援団が掲げていた応援旗を見上げるミノン。そこにはハナシカに扮した、「八代目ふわふわ魔女」ことコルティナのイラストがしっかり描かれている。
「この前送った、あの応援旗のイラスト案を見て、あえて出囃子で挑戦したのー?」
「確かにあのイラストに興味を持って、ハナシカについて調べている内に出囃子まで辿りついたのは事実です。でもコルティナさんへの挑戦と言うよりは、単に曲を気に入っただけです。あの三味線と太鼓の独特のリズムは、先が読みにくくて実に面白い」
「ハナシカに入門したての新人さんは、まずあの太鼓のリズムをみっちり稽古させられるそうだよー。私もさっき、ウチの選手に稽古を付けてたんだけどー、中々難しくてみんな苦労してたー」
「ええ。実際初めてだと、曲を聴きながら太鼓に合わせて床を叩くのは苦労するでしょうね。独特のパターンですから」
「聴き慣れない民族音楽のリズムは、相手を幻惑させるのにいいかもねー。で、途中で急に別のリズムに切り替えると、さらに効果的ー」
「あっはっは、姉のリズムを借りてそれをやったら、大成功でした」
「急にシェルシェが現れてびっくりしたよー。あれは、お姉さんの入れ知恵かなー?」
「いえ、つい最近、姉が妹のパティにみっちり稽古を付けている場面に立ち会ったもので。とっさの思いつきでした」
「野生のカンだねー。久しぶりにシェルシェと試合が出来たみたいで、私も楽しかったよー。多分、試合を観てたシェルシェも同じ事を思ってるだろうねー」
「違いありません。何とか一本取れたから良かったものの、もし外していたら、私も稽古と言う名の地獄の特訓を受けさせられる所でした」
「地獄の番人はおっかないからねー。番人というより、大魔王かなー」
シェルシェをダシにして、互いに笑い合うミノンとコルティナ。
その様子を遠くから双眼鏡で見ていた当のシェルシェは、
「ふふふ、あの二人は、多分碌でもない事で盛り上がっているに違いありませんね」
妖しい笑みを浮かべつつ、そんな独り言をつぶやいていた。
地獄の大魔王は地獄耳。




