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慎重に辺りの様子を窺い、甲冑がいない事を確認しながら、男子学生と女子学生は、地下倉庫を出て玄関ホールへと向かう。
玄関ホールに到着すると、早速二人はドアを爆破する為の仕掛けを設置し始めた。
男子学生は、予め約十センチに切り分けておいた羊羹状のプラスチック爆薬を、強力な両面テープを使って、正面玄関のドアノブのすぐ横に固定し、電気雷管を刺す。
一方女子学生は、電気雷管から出ている長いコードを、玄関ホールから一番近い部屋まで床を這わせて行き、部屋の中に入ってから、コードの終点である起爆ボタンの付いた小箱を、ドアの横の壁に両面テープでそっと固定した。
一見するとドアチャイムのボタンの様だが、今うっかり押したら、男子学生が吹っ飛ばされて確実に死ぬ。
女子学生は部屋から顔を出し、玄関ホールにいる男子学生に向かってオーケーのハンドサインを出したが、男子学生はそれを制する様な身振りをして、何やら緊張している様子。
その理由はすぐに分かった。甲冑が男子学生の方へ向かって、カシャン、カシャン、と足音を立てながら、ゆっくりと近づいていたのだ。なお、女子学生には気付いていない模様。
しかし、男子学生は逃げようとせず、玄関のドアの前で甲冑が来るのを待ち構えている。
甲冑は血塗られた剣を構え、ゆっくりと男子学生の方に歩み寄って行く。
その危なっかしい状況を遠くから見ながら、女子学生は声を出さずに、「早く、こっちへ!」、と懸命に手招きするが、男子学生は一向に逃げようとしない。
そうこうしている内に、ついに剣が届く距離まで甲冑が来てしまった。
女子学生が、「もうダメ! 殺される!」と絶望の表情になったその時、男子学生は両手を高く上げて、手の甲が上になるように手先を曲げ、さらに左足を床から浮かせて、右足一本だけで立った。
まるで、荒らぶる鷹が羽根を広げて、相手を威嚇しているかの様に。
画面を見ていたコルティナが、不意を突かれて激しく噴き出し、
「ここで……そのポーズは……反則……」
またソファーから落ちて笑い転げたが、横で見ているエーレには、何がそれほどおかしいのかさっぱり分からない。
次の瞬間、男子学生は右足でジャンプし、さらにその足で甲冑の顔面に見事な前蹴りを放つ。
それを見たコルティナは、床をバンバン叩いてさらに笑い続けたが、やはり元ネタを知らないエーレには、何がおかしいのかさっぱり分からなかった。
知ったら、ペンキ塗りとワックスがけをやりたくなるかもしれない。