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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十四章◆◆ 圧倒的な才能と最新鋭の技術と天賦の洞察力との三つ巴戦について

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◆458◆

 ミノン、エーレ、コルティナという三大令嬢が当初順調に勝ち進んでいたこの大会もいよいよ終盤に入り、勝ち残った他の無名選手達にこの三強がやや手こずる場面も多く見られる様になる。


「やっぱりアレか。ララメンテ家のあの床を叩く謎の儀式が効いたのか」

「いや、それを率先してやってたコルティナも苦戦してるだろ。自分で自分の儀式のダメージを受けてどうするよ」

「ま、普通に考えりゃ、今日の試合で得た三強の最新データを大急ぎで分析した結果だろうけどな。ララメンテ家のアレがどういう具合にデータを分析しているのかは、全くもって謎だが」


 一部観客の推測通り、勝ち残った選手達は既に敗れた仲間達の助言を受けて、強豪を倒す最適解を導き出そうと必死に策を練っていた。試験終了ギリギリまで難問を考え抜く学生の様に。


 が、元より難問はそう容易く解けぬもの。一人、また一人と強豪に挑んでは、惜しい所まで行きつつも完全解答に届かず、敗北の苦さを噛みしめながら肩を落として戻って来る。


「いい試合だった! 仇は私が取る!」


 マントノン家の選手はミノンに豪快に励まされ、


「よく頑張ったわ! 胸を張って!」


 レングストン家の選手はちっちゃなエーレに癒され、


「おつかれー。はい、こっちに来て、一緒に床を叩いて叩いてー」


 ララメンテ家の選手はコルティナに呼ばれ、また謎の儀式をやらされていた。


 その謎の儀式もコルティナを除く最後のララメンテ家の選手とミノンとの試合を前にして、ようやく床を叩く音が止んだ。 


「誇り高きララメンテ家の剣士も、とうとうお主が最後となってしまったかー」


 その選手を送り出すに当たり、今まで文字通り音頭を取っていたコルティナが何やら小芝居を始める。 


「いや、あんたも勝ち残ってるでしょ。ってか、どういう設定だ」


 小芝居に付き合う事を拒否してツッコミを入れる選手。


「ワシはもう年じゃー。あの巨大怪獣とは戦えぬー」


「同い年でしょうが」


「見ての通り、もうワシの命は長くないー」


「ピンピンしてるんだけど」


「うっ、持病の癪がー!」


「やかましい」


「巨大怪獣との戦いに行くお前にー、言っておきたいー、事があるー♪」


「何? さっさと言って」


「ワシより先に寝てはならぬしー、ワシより後に起きてはならぬー」


「意味分からん」


「ちなみにワシは夜の三時に寝て五時起きじゃー」


「どんなブラック企業の社員だ」


「ちなみに夕方の五時ー」


「昼夜逆転したダメ人間かよ」


「で、ここからが本題なんだがー」


「手短にお願い」


「この大会の会場に来るまでずっと、お主の履いていたスカートのファスナーが開きっぱなしじゃったー」


「気付いてたなら早く言ってよ!」


「冗談だよー。じゃ、教えたリズムを忘れずに、肩の力を抜いて頑張ってねー」


「それだけの事を言うのに、随分と長い前置きだったな」


 このしょうもないやりとりも緊張をほぐす為のコルティナの心遣いだと分かっている選手は、苦笑いを浮かべつつ巨大怪獣の待つ試合場へと歩き出した。


 その途中でふと振り向いて、


「あ、そうそう、みんな。今朝ここへ来る時、私のスカートのファスナーはちゃんと閉じてたよね?」


 冗談めかして質問するが、なぜか仲間達は無言で目をそらす。


「閉じてたよね?」


 不安げに問い直す選手。


「うん、まあ……どうだったかな」

「それより、ほら、試合、試合」

「か、帰ってきたら教えるから」


「ちょっと!」


 試合とは全く関係ない不安を抱えたままミノンと戦ったこの選手、結局敗れはしたものの強豪相手に臆した様子もなく、中々の善戦を演じたという。

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