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観客席で姉のシェルシェが妹のパティに「大会終了後、エーレに直接触れる事を禁ずる」という、アル中患者に「今後一切酒を飲む事を禁ずる」位に難易度の高い禁止令を言い渡している頃、試合場のミノンはそんな茶番などどこ吹く風と、マイペースで順調に大会を勝ち進んでいた。
この巨大怪獣ミノンと戦って敗退したレングストン家の選手達は、
「どうもタイミングが合わせられないわ。VRのモデルと動きはほとんど同じなのに、わずかに外されてる」
「そう、本当にわずかなんだけど。スピードもさほど変わってないし、剣の軌道も一緒だし」
「対策は基本的に間違ってないと思う。ただ、それだけだとどうしても一本が取れない」
まだ生き残っている仲間達に自分達の貴重な体験談を報告し、怪獣討伐の願いを託している。
一方、ララメンテ家の選手達はミノンに敗れた者もそうでない者も、
「師匠、巨大怪獣ミノンの分析をお願いします」
八代目ふわふわ魔女ことコルティナを取り囲み、その解説を待っていた。
「えー、一杯のお運び様でありがたく御礼を」
正座で礼儀正しくお辞儀をしてから、おもむろに口を開く八代目ふわふわ魔女。
「師匠、堅っ苦しい挨拶はいいから本題に」
「『ご隠居、いるかい』、『おや八っつぁん、まあお上がり』」
「師匠、違う。そういう意味の本題じゃない」
「せっかく、八代目を襲名したのにー」
「だから『師匠』と呼んで付き合ってあげてるでしょ。とっとと始めてください、師匠」
「えーん。可愛い弟子達が師匠にちっとも敬意を払ってくれないよー。そのうちきっと、『師匠、クリームパン買って来い』とか言われるんだー」
「誰が弟子だ。分かった、もう『師匠』はやめて普通にしゃべろう。ともかく今日のミノンが好調な理由について解説をお願い」
「タネは単純明快だよー。一言で言えばリズムー」
「リズム?」
「元ネタの曲を聴いた方が分かり易いんだけどねー。選手が試合場にポータブルプレイヤーとか携帯とかの機器を持ち込む事は禁止されてるから、ここで直接教えるよー。テーテーテー、テテテ、テテテー♪」
唐突に、聞き慣れない曲をふわふわと口ずさみつつ、正座したまま床をポン、ポンと手で叩き始める八代目。
「皆も私に合わせて、一緒に床を叩いてみてー。テテテテテテ、テテテテテー♪」
それを真似して、仲間達も自分が座っている前の床を叩こうとするが、これが不思議と上手く合わせられない。
「口ずさんでる曲と床を叩くタイミングが、微妙にズレてない?」
「曲は曲、床は床だよー。ギターとドラムみたいな関係かなー」
「エアギターにエアドラムか」
「そんな感じー。じゃあ続けるねー」
コルティナの動きに合わせ、一心不乱に不規則なリズムで床を叩いているララメンテ家の選手達に気付いた観客達は、
「何やってんだ、あいつら?」
「怪し過ぎる。オカルトか何かじゃねえの」
「試合中の選手にモールス信号で指令を送ってたりして」
狐につままれた様な気持ちで、その謎の儀式の真意を測りかねていた。
もっとも、やらされている方も狐につままれた様な気持ちで、この謎の儀式の真意を測りかねていたのだが。




