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自分の姿を本人の了承なく萌えロボ化したふざけた応援旗が観客席のあちこちで掲げられ、その旗の全てに「躍動する青春の汗と涙と感動!」と、先日やらかした若気の至りを茶化す一文がしっかり入っており、熱狂した観客達が、
「躍動する!」
「青春の汗と!」
「涙と!」
「感動!」
わざわざその文を区切って大声で読み上げる、応援というよりある意味逆風の中、長年の剣術修行で鍛えた不動心でこれらのノイズをスルーし、着実に一つ一つの試合を勝ち進んで行くエーレ。
「一生懸命応援してくれるその気持ちだけありがたく受け取って、あとは試合に全力を尽くすわ」
仲間達にそんな事を苦笑交じりに言っているそばから、観客席でレングストン家の応援団までもが、先日エーレが用意した、
「躍動する青春の汗と涙と感動!」
と書かれているオリジナル横断幕を掲げ出す始末。自業自得とは言え、ちょっとナーバスになるエーレ。
「ふふふ。エーレは快調ですが、精神的に少し疲れている様ですね」
観客席から双眼鏡でエーレの表情を観察していたシェルシェが言う。
「でも、試合の時はいつもの様に活き活きとしてますよ。VRで特訓を重ねて来た他のレングストン家の選手達が、ミノン、コルティナという二強に力及ばず敗れて行くのを心苦しく思って、つい顔色に出てしまうのではないでしょうか」
同じく双眼鏡でエーレの可愛らしさを堪能していたパティが答える。
「エーレは、そんな皆の士気を下げる様な真似はしませんよ。もっと個人的な事でへこんでいる様に見受けられます。大方、『大会が終わった後、不埒な輩の襲撃をどうやって回避しよう』、といった所でしょう」
「では、私がその不埒な輩を成敗してみせますよ」
「ふふふ、面白い冗談ですね。自分で自分を成敗するなんて」
双眼鏡から目を離し、隣に座る不埒な輩に冷たく微笑むシェルシェ。
「そ、それはともかく、応援旗は大成功ですね! コルティナさんの先見の明には、ただただ脱帽です!」
冷たく危険な視線を感じ、あわてて話題を転換しようと試みるパティ。
その大成功となった応援旗こそがエーレをへこます原因である、と知ってか知らずか。




