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これら各家公認の三つの主要な応援旗の他、観客席にはこの美少女三剣士を思い思いの解釈と画風で描いた旗がずらりと並んでおり、
「ミノンは怪獣化されてる絵が多いな。熱狂的な女性ファンが描いた、男装イケメン王子様バージョンも結構あるが」
「エーレはもうオリジナルのイメージが固まってて、ロボット一択だな。その一つ一つに、『躍動する青春の汗と涙と感動!』、って一文が入ってる辺り、よく統率されてる」
「コルティナのイラストは、そのほとんどが黒いトンガリ帽子に黒ローブ姿の魔女だけど、まさか公式絵が紋付き袴姿とはなあ。意表を突かれたぜ」
試合の合間にそれらを眺めているだけでも退屈しなかった。
「いいねー。こういう風に、試合は試合、応援は応援で、どっちのお祭り騒ぎも楽しめるに越した事はないよー」
このお祭り騒ぎの仕掛け人であるコルティナが観客席を見回し、一仕事やり遂げた職人よろしく満足げに頷く。
「その内、試合そっちのけで応援だけ楽しむ人達とか出て来そう」
「観客席で乱闘を起こすフーリガンみたいなのは困るわ」
「もしくは自作応援旗の展示会場と化して、試合よりそっちの方が目的になったりしてね」
エディリア剣術界の将来を憂う、ララメンテ家の他の選手達。
「それは楽しそうだねー」
「いや、試合がやりにくいでしょ。そんな本末転倒なお祭り騒ぎは」
「どんな環境でも、心を乱さずに剣を振るえるのが真の剣士だよー」
「私らそこまでの境地に達してないし、仮にそれが出来たとして、剣士の晴れの舞台がそんなお祭り騒ぎな空間って悲しくない?」
「大丈夫、遊園地で結婚式を挙げるカップルだっているしー」
「未来の旦那が『遊園地で結婚式がしたい』って言ったら、泣いてやめる様に懇願するわ。もしくは木刀でしばく」
「そんなに嫌かなー。だって夫婦揃ってバンジージャンプとか出来るよー?」
「どこの未開の部族の儀式よ」
「招待客をコーヒーカップに座らせて、ぐるぐる回し続けたりー」
「給仕する人が大変そうだな。皿とかグラスとか遠心力で吹っ飛ぶぞ」
「指輪交換はジェットコースターに乗ってやるのー」
「振動と風圧で指輪落っことしそう。ループしてる時とか特に難易度高いわ」
「うーん、そう考えると、やっぱり結婚式って大変だねー」
「そういう問題じゃない」
「前提条件を見直せ。まずは遊園地のアトラクションの正しい使い方からだ」
「それより、もうすぐ試合でしょ。ほら、行った行った」
旗祭り絶賛開催中の観客達が見守る中、仲間達に追い立てられる格好で、剣術と関係ないバカ話を中断し、試合場へふわふわと向かうコルティナ。
一応、今大会の最有力優勝候補である。




