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「惜しくも優勝は逃したが、データ分析を無効化するパティの作戦は実に見事だった」
マントノン家の書斎で、可愛い孫娘の活躍を満足げに振り返る、祖父バカモード全開の前々当主クペ。
「ええ、あんな戦い方はパティにしか出来ません。こと器用さにかけては私より優秀です」
そんな祖父の言葉に同意して微笑む現当主シェルシェ。が、その笑みにはどこか仮面の様な冷たさがあった。
「で、そのパティの姿が見えないのは、また大会終了後に暴走したのか?」
イヤな予感に胸をざわつかせつつ、現実から逃げちゃダメだと自分を鼓舞し、思い切って尋ねるおじいちゃま。
「いえ、今日は流石のパティも一人二役の変則的な戦い方をして疲れたのか、あるいはVR特訓の脆弱性を思い知らされたレングストン家の道場生達が、早々とミーティングの為に会場を去ったのが幸いしたのか、エーレはパティの魔の手を逃れる事に成功しました」
仮面の様な笑顔のまま、淡々と報告するシェルシェ。
「それは良かった。またてっきり悪さをして地下室に閉じ込められたのかと」
安堵の吐息を漏らすおじいちゃま。
「パティは今、ミノンと共に稽古場で待機させています」
「ほう。次の高校生の部に向けて、ミノンの稽古台を務めさせるつもりか」
「いえ、私が直々にパティに稽古を付けます。ミノンは主に見学です」
「はは、もう全ての大会を終えてしまったパティに、さらなる稽古とは熱心な事だ。だが、今はミノンの方に稽古を付けてやるべきだろう」
「今日の決勝戦で、パティは最後に私の戦闘スタイルをコピーして戦いました。これはオリジナルとして見逃してはおけません」
「まさか、パティがお前の戦闘スタイルをコピーして敗れた事を怒っているんじゃないだろうな?」
心配そうに尋ねるおじいちゃま。
「ふふふ、とんでもない。むしろあの子には心から感謝しています。まるで私がパティに乗り移って戦っているかの様な高揚感を味合う事が出来ましたから」
仮面の様だったシェルシェの笑顔が、次第に妖気を帯び始め、
「お、おう」
ちょっと怖くなるおじいちゃま。
「ですが、所詮は付け焼刃。まだ完全に私の技をコピーしきれていない部分が多々見られます。大会など関係なく、私はあの子を修正する義務があるのです。今すぐに」
シェルシェの話し方に鬼気迫るものを感じ取り、言葉を失うおじいちゃま。
「ふふふ。とりあえず大会の報告はここまでです、おじい様。私はこれからパティの修正に向かいます」
そう言い置いて、書斎を出て行くシェルシェの後ろ姿を見ながら、
「いつもの様に、狼藉を働いて地下室に監禁されていた方が良かったかもしれんな」
机に両肘を突き、手を口元で組んで、パティの身を案じずにはいられないおじいちゃま。
その晩はかなり遅くまで、修正されまくるパティの悲鳴が稽古場から聞こえていたという。




