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場内の熱狂冷めやらぬ中、試合直後にパティから痴漢まがいの熱烈なスキンシップをされた影響も加わって、緊張と混乱と興奮で一杯一杯な状態のまま、優勝インタビューに臨み、
「とにかく、無我夢中でした。心を鎮めようとして、横断幕に書かれていた文章を頭の中でひたすらリピートしながら戦って、気が付いたら優勝していた感じです」
夢見心地で、横断幕のありがたいご利益を報告するサリダ。
「サリダ、なんかカルト宗教に洗脳された人みたい」
「ひどい目にあってるのに、自分は幸福だと思い込んでるアレね」
「今すぐこの横断幕を焼き捨てれば、洗脳が解けるかも」
そんなサリダを憐れみつつ、自分達が掲げさせられている恥ずかしい横断幕をディスるララメンテ家応援団の皆さん。
「うんうん、私も苦労して、この横断幕を用意した甲斐があったよー」
そんな仲間達の当てこすりを全く意に介さず、これみよがしに大きなハンカチを顔に当て、感涙にむせぶフリをするコルティナ。もちろん涙など出ていない。笑っている。
「カルト宗教の教祖が何か言ってるわ」
「もしくは、無垢な子供を怪しげな魔術で惑わす魔女といった所ね」
「とりあえず魔女狩りと魔女裁判やっとく?」
「ひどーい! 私のどこが魔女だっていうのー?」
「上から下まで全部」
黒いトンガリ帽子に黒いローブ姿のコルティナに、皆から総ツッコミが入るいつもの光景。
「あはは、またやってる」
「ほんとブレないなあ、ウチの応援団は。まあ、そこがいいんだけど」
「ブレないっていうより、コルティナさん一人に振り回されてる感じだよね」
サリダ以外のララメンテ家の選手達が、観客席の応援団を見上げながらしみじみと言う。
そこへ、優勝インタビューを終えたサリダが顔を真っ赤にさせながら帰って来て、
「ああ、緊張したぁ。ねえ、私インタビューで何か変な事言ってなかった?」
と不安げに仲間達に尋ねた。
「大丈夫。あの横断幕に書いてある文章に比べたら、全然変じゃない」
「ってか、コルティナさんの優勝インタビューより変な事言える訳がないから安心して」
「むしろ、コルティナさんに後でダメ出しされるよ。『優勝インタビューはねー、もっとはっちゃけなくちゃダメだよー』とか」
「ははは、似てる!」
コルティナの物まねに笑わされ、ようやく落ち着きを取り戻すサリダ。
この様にその場にいてもいなくても、ララメンテ家の道場生達をふわふわと振り回し続けるコルティナだった。




