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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十四章◆◆ 圧倒的な才能と最新鋭の技術と天賦の洞察力との三つ巴戦について

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449/638

◆449◆

 エディリアの中学生の中では間違いなく最強の剣士であり、華麗にして変幻自在な技の数々で、観客のみならず対戦相手までも魅了する「大道芸人」ことパティ。


 素で戦えば一たまりもないこの強豪の最後の相手となったのは、ララメンテ家の選手の中でも特に目立った所のない中学二年生サリダ・ジェガダ。


 優雅に試合場中央に進み出るパティに対し、今日まで決勝戦など夢のまた夢だったサリダはいささか緊張気味の様子である。


「サリダって子、ガチガチだな。あれで戦えるのか」

「いや、あれでも決勝まで勝ち残ったんだから、今日は調子がいいんだろ。試合が始まればシャンとするさ」

「でも、決勝まで戦って来た相手とパティとじゃ格が違い過ぎる。頼みの綱のデータ分析も、今日はあんまりパッとしないし」


 野生動物のドキュメンタリー番組で、群れからはぐれてライオンに襲われそうなシマウマの子供を見ている視聴者の様に、サリダを見守る観客達。


 互いに礼を済ませて試合が開始されると、パティは姉のミノンの様に大きく剣を振りかぶってどっしりと構え、サリダは大きく距離を取り、中段に構えてこれと対峙した。


 さながら迫り来る重戦車を前に、たった一人でおっかなびっくりバズーカを担いで迎え撃つ歩兵の様。


 ゆっくりと間合いを詰めながら、主砲の照準を合わせる様に、振りかぶった剣の位置を調整するパティ。


 間合いを詰められながら、剣を斜めに倒して持ち上げ、上段からの一撃を警戒するサリダ。


 と、気合いの声と共にパティが大きく飛び込み、サリダの頭部を真っ向から打ち据えた。


 が、サリダはそれを読んでいたかの様に、パティの右手を外側から小さく鋭く打ってこれを相殺する。


「おお、やっぱりパティ対策だけじゃなく、ミノン対策も万全だな、ララメンテ家」

「でも、問題はこれからだぜ。パティはミノンと自分の戦闘スタイルを混ぜこぜにして来るから」

「パティとミノンのどっちで来るか、読み切れるかどうかだな」


 観客達の予想通り、パティは巧みにミノンと自分の戦闘スタイルを入れ替えながらサリダをかく乱しようとするが、サリダは危なげながらもそれらを何とか回避し、一本も許さぬまま制限時間一杯まで耐え抜く事に成功。


 時間切れの瞬間にはパティから見事に逃げ切ったサリダの健闘を称え、観客席から拍手が巻き起こる。


「ふう、見てるこっちまでハラハラするな」

「赤と白の旗を上げ下げするゲームで、最後までノーミスを達成したプレイヤーを見てる気分だ」

「でも、延長戦は時間無制限だぜ。サリダも俺達もいずれは力尽きる時が来る」


 逃げ切られてなお疲れた様子を見せないパティと、なんとか逃げ切ったものの心身共に疲弊しているのがよく分かるサリダが試合場中央で仕切り直し、延長戦に突入する。


 しかし、サリダが力尽きて終了するかと思われたこの延長戦において、パティの戦闘スタイルがガラリと変わる。


 豪快なミノンでも華麗なパティでもない、すぅーっと剣を軽く振りかぶったその姿に、観客達は何か得体のしれない禍々しさを感じてゾッとした。


 その構えには健全なスポーツらしからぬ、


「お前を斬り殺す」


 という明確な殺意が見て取れ、試合用のカーボン製の剣では斬れないと分かってはいても、凄く怖い。


 そんな会場内の凍りついた空気を切り裂く様に、立ちすくむサリダの右胴を狙って、前に素早く飛び込んだパティの剣が鋭い弧を描く。


 しかし、その剣はサリダに届かなかった。


 突風を受けた一枚の羽毛の様に、サリダはふわっと体をかわし、そのままパティの頭部をふわっと軽く打ち据える。


 これが一本と認められると、おおっ、というどよめきに続いて、サリダの優勝を称える大きな拍手が会場内に湧き起こった。


「はっはっは、パティめ。最後はシェルシェの戦闘スタイルで決めるつもりが、逆にコルティナの戦闘スタイルに決められたか」


 豪快に笑いつつ、拍手を送るミノン。


「ふふふ、私の戦闘スタイルを拝借して敗北とはいい度胸です、パティ」


 苦笑しつつ拍手するシェルシェ。


「あんまりパティを責めないでやってくれ。あれはあれでよくやったさ」


「ええ、分かっています。冗談です。全力で戦ったパティを責めたりはしません。ですが」


 シェルシェは拍手を止めて、感慨深げに試合場の二人を見つめ、


「一瞬、まるで私自身が戦っている様な気分になりましたよ」


 しみじみとした口調でそう言った。

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