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その後もパティは、ミノンの上段戦法を駆使しつつ、本来の自分のスタイルを巧みに織り交ぜて、対戦相手の読みを狂わせ、試合を勝ち進んで行く。
「マントノン家の次女と三女を同時に相手してる様なものだわ」
パティ対策に満を持していた後輩達が、その裏をかかれて陥った危機をどうする事も出来ず、観客席でもどかしげなエーレ。
「こんな事なら、ミノン対策もやらせておくべきだったかなあ」
隣でティーフも渋い表情。おそらくレングストン家の応援団皆が、同じ事を考えている。
「パティ対策で手一杯だったから難しいわね。片やパティはこの大会のずっと前から、ミノンの戦い方を研究していたでしょうし」
「一朝一夕の付け焼刃は、むしろこっちの方か」
「パティがこうもあからさまに、ミノンのスタイルで戦うのは今日が初めてだけれど」
「改めてパティの凄さを思い知らされるな。年齢差があるからまだ私達と対戦する事はないが、もし、中学の部と高校の部が一緒だったらと思うと、正直恐ろしくなる」
「本当に恐ろしい上におぞましいわ」
異常性犯罪者の犯行現場をうっかり見てしまった小学生女子の様な感想を漏らすエーレ。もちろん、恐ろしい上におぞましいのは剣士としてのパティではなく、変態としてのパティの方。
一方、中学生の選手達にパティ対策だけでなくミノン対策もやらせていたララメンテ家の応援団は、
「コルティナの予想が当たったね。おかげで、まだどうにか持ちこたえてる感じ」
「レングストン家の選手達は、見るからにもう一杯一杯だもんね。それでも最後まで試合を捨てない所が立派だけど」
「でも、このふざけた横断幕は正直今すぐにでも捨てたい」
コルティナの先見の明を称えつつ、コルティナの用意して来た横断幕をディスっていた。
「お笑いバトルに負けたからって、自分の芸を全否定するのはよくないよー。その芸を喜んでくれたお客さんに対して失礼だからねー」
先見の明はあるが、普段の言動がふわふわし過ぎて捉えどころのないコルティナ。
「いい話に聞こえるけど、やっぱりこの横断幕は捨てたい」
「これを捨てるなんてとんでもない! 戦いにおいて旗とか幟は重要な意味を持つんだよー。兵士達の心の拠り所だからねー」
「こんな心の拠り所はイヤだ。なんなのさ、『あえて言おう、菓子であると!』って?」
「じゃあ、レングストン家の横断幕の方がよかったー? 『躍動する青春の汗と涙と感動!』」
「くっ……アレはアレでちょっと恥ずかしい」
「その反応はレングストン家の選手に失礼じゃないかなー」
「あんたが話を振ったんでしょうが!」
結局横断幕は捨てられる事なく最後まで掲げられ、決勝戦でパティと戦うララメンテ家の選手の心の拠り所となっていた。
「あえて言おう、菓子であると、菓子であると、菓子であると……」
主に緊張をほぐす為のおまじない的な意味で。




