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一部の応援合戦がお笑いバトルに成り果てる一方、肝心の試合の方は優勝候補の筆頭パティが、
「パティ、また上段に大きく構えてるぜ。ミノンの直伝かな」
「戦闘スタイルをガラリと変えて、データ分析を無効にしようって魂胆だろう。だが、付け焼刃がいつまでもつかねえ」
「その付け焼刃で最後までなんとかしちまうのが、『大道芸人』パティだろ。去年は突然二刀流に変えて、姉貴の三冠達成を阻止してたし」
いつもの中段から、姉のミノンの様に大きく上段に構えるスタイルに変更したのが功を奏したものと見え、順調に勝ち進んでいる。
「あれは、あなたが教えたのですか、ミノン?」
観客席から試合を興味深く見守りながら、隣のミノンに尋ねるシェルシェ。
「ああ。パティは普段から私の戦法をよく研究してるから、ほとんど教えるまでもなかったけどな。しかし、こうやって自分の戦い方を客観的に見られるのは面白い」
まるで自分が試合場で活躍しているかの様な錯覚を楽しむミノン。アクション映画を観た後、ヒーローになりきったまま映画館を出てしまうタイプである。
「ふふふ、あなたのコピーとしては、レングストン家のVRで作ったミノンモデルにも引けを取らないでしょうね。身長を再現出来ないのが惜しい所ですが」
「いっそ上げ底の靴を履かせたら、もっと再現性が上がるかもしれない」
「あの子なら竹馬を足に装着しても戦えるでしょう。本職の『大道芸人』が足長パフォーマンスをやる様に」
「お祭りっぽくて楽しそうだな。何だか自分でもやりたくなってきた」
「ふふふ、それ以上身長を高くしたら、相手の剣が届かなくなりますよ」
軽口を言って笑うシェルシェ。
「それはそれとして、レングストン家の選手もデータ分析なんか捨てて、どーんと飛び込んでくれた方が面白いのになあ」
「残念ながら、レングストン家は慎重策に切り替えた様ですね。後で戦う選手の為に、パティの戦い方をよく分析させておくつもりなのでしょう」
「その点、ララメンテ家の選手達はあまり影響がないな。指導者同様、慌てず騒がずマイペースだ」
試合場ではそのララメンテ家の選手とパティの試合が行われている所であり、剣を上段に大きく振りかぶったパティが、少し離れて中段に構えた相手にじりじりと詰め寄っている。
と、左手を伸ばして剣を相手の右手に振り下ろすパティ。しかしそれより一瞬早く、ララメンテ家の選手が前に出て真正面からパティの頭部を打っていた。
これが今日初めてのパティに対する一本となり、観客席からは大きな拍手が巻き起こる。
「やられたっ!」
まるで自分が打たれたかの様に、頭に手を当てて悔しがるミノン。
「見事にタイミングを合わせられてしまいましたね。ララメンテ家では中学生の部の選手も、あなたの攻略法を一通り指導していた様です」
拍手をしながら微笑むシェルシェ。
「まだだ、まだこれからだ!」
「ええ、まだ一本先制されただけです。このまま引き下がるパティではありません」
試合が再開されると、パティは構えをいつもの中段に戻し、相手に考える隙を与えず頭部を打って、まず一本。次に構えを上段にして、仕掛ける事なく時間ギリギリまで粘ってから、左手を伸ばして相手の右手を打ち据え、勝利を決めた。
「ふふふ、仕返しとやり直しで勝つ辺り、パティらしいやり方です」
「私としては、最後まで私の戦闘スタイルで戦って勝って欲しかったがなあ」
そんな二人の姉の思案などどこ吹く風と、試合を終えたパティは対戦相手をしっかと抱き締め、その体を嬉しそうに触りまくっていた。




