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「さっきコルティナから、長い棒の形をしたサムライの国の飴をもらったんだけど、一人じゃ食べきれそうにないから、後で適当な長さに切って皆で分けましょう」
そう言って、観客席でレングストン家の応援団の皆に、もらった千歳飴の袋を掲げて見せるエーレ。
「やっぱり千歳飴はちっちゃな子供が持っているのが一番似合うねー。欲を言えば、キモノ姿で持って欲しかった所だけどー」
その様子を遠くから双眼鏡で観察しながら、ふわふわと微笑むコルティナ。ちなみにサムライの国の女の子は、三歳と七歳の時にキモノ姿で千歳飴の袋を持って記念写真を撮る事が多い。
「今日は、レングストン家の『エーレマークⅡ』の応援旗は出ないみたい」
「アレはエーレの熱狂的なファンが勝手にやってる事だから、エーレの試合がない時は出さないんでしょ」
「でも、『エーレマークⅡ』の小さな旗を作って応援してるお客さんはちらほらいるね」
コルティナが配ったやたら長い千歳飴を舐めながら、会場全体の様子を眺め渡すララメンテ家の仲間達。
「『エーレマークⅡ』は、エーレ個人という枠を超えてレングストン家のシンボルになりつつあるねー。ウチも負けない様に、ここらで横断幕いくよー!」
コルティナの号令一下、ララメンテ家の応援団の面々は舐めていた長い千歳飴を適当な長さで短く折って、残り部分は袋にしまい、やれやれといった表情をしつつも、用意された横断幕を手に持って広げてやった。
その横断幕には、
「あえて言おう、菓子であると!」
相変わらず意味不明なお菓子のキャッチコピーともロボットアニメのセリフのパロディーともつかぬ文面が記載されている。
「ああ、やっぱり今回も恥ずかしいわ。出来れば無関係を装いたい」
「そりゃ、『楽勝』を『一切れのケーキ』って言い方があるのは知ってるけどさ」
「コルティナは一度レーザーで頭を後から撃ち抜かれたらいいと思うよ」
短く折った千歳飴を口に咥えながら困惑気味の仲間達と、「ララメンテ家、また例のヘンな横断幕やってるよ」的なクスクス笑いがあちこちから聞こえる観客席。
それを見たエーレは、
「コルティナは、また訳の分からない横断幕を出して来たわね。まあ、自分の所の大会で何をやっても自由だけど、剣術大会なんだし、もっとちゃんとした横断幕があってもいいわよね」
そう言いながら、ごそごそと足元の紙袋から何かを取り出そうとし始める。
「ウチも横断幕を掲げるのか?」
隣でその様子を見守る親友のティーフ。
「ええ、選手達の心を鼓舞する様な、ちゃんとした横断幕をね。皆、手伝ってくれる?」
レングストン家の仲間達に手伝ってもらい、エーレが掲げた横断幕には、
「躍動する青春の汗と涙と感動!」
と大きく書かれていた。
一瞬、観客席が水を打った様に静まりかえった後、
「なんじゃそりゃ!」
「そう来るか!」
「レトロ過ぎ!」
文面を考えた熱血スポ根気質のエーレの思惑とは全く反対に、大会会場は大爆笑の渦に包まれた。
「何で? 何で皆ここで笑うの!?」
試合場の方に目を移せば、試合を控えた選手の中には、笑いをこらえきれず四つん這いになって体を震わせる者もいる始末。
自分がやらかしてしまった事に気付いたエーレは真っ赤になって、
「やっぱり、やめ! この横断幕は引っ込めて!」
あたふたと指示を出すも、
「まあまあ、せっかく作ったんだし、急に引っ込めなくても」
「別にヘンな事は書いてないよ。ただ、ララメンテ家の横断幕の直後に出したのが悪かっただけで」
「そうそう、場の空気がちょうどお笑いを求めてたのよ。エーレは悪くない」
「会場は大いに盛り上がったし、結果オーライ!」
そんなあたふたしたエーレが可愛くて、つい指示に逆らって楽しんでしまうレングストン家の仲間達。
「このお笑いバトル、私達の完敗だねー。エーレはマークⅡに進化してから、一段とお笑いの腕を上げたみたいだわー」
妙に清々しく敗北を認めるコルティナに、
「それ以前に、応援用の横断幕をお笑いバトルに使うなっ!」
冷静にツッコむララメンテ家の応援団の皆さん。でも、お笑いバトルに敗れてちょっと残念そう。
アホな勝負でも、勝負は勝負なのである。




