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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十四章◆◆ 圧倒的な才能と最新鋭の技術と天賦の洞察力との三つ巴戦について

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◆444◆

 当主シェルシェを中心とした、剣術の名門マントノン家の美少女三姉妹による大真面目な萌え絵談義が続く。


「『エーレマークⅡ』と『八代目ふわふわ魔女』のイラストには、どこがどうと具体的に言うのは難しいのですが、共通する何かを感じます」


 萌え絵について真剣に考察するシェルシェの姿は、まるで発掘品に刻まれた謎の古代文字を解読しようと奮闘する考古学者の様。


「やっぱり、マンガ家とかに頼めばいいのかなあ?」


 適当な割に結構いい線を突いているものの、やはりその手の知識に乏しいミノン。


「ウチの広報に相談して出版社に掛け合うなりすれば、その手のプロの絵師を紹介してもらえるのではないでしょうか」


 知識が乏しいなりに、無難な提案をするパティ。


「こちらに知識がない状態で丸投げして、はたして要望通りのモノが仕上がるのか疑問です。昨今の若者向けの小説でも、『表紙や挿絵がストーリーに合っていない』、などと読者を失望させる事がよくあると聞きます。一説には碌に内容を読まずに描いてしまったり、他の作品でボツになった絵をそのまま提出する絵師もいるとか」


 知識は乏しいのに、出版業界の闇には妙に詳しいシェルシェ。


「それはそれで面白そうなモノが出来上がるかもな。想像だけで描かれた私が、どんな怪獣にされるのか見てみたい」


 他人事の様に笑うミノン。


「一流の売れっ子絵師はスケジュール的に無理でしょう。あるいは、かつて持て囃されたものの、今は尾羽打ち枯らして暇を持て余している古参絵師を紹介されるかもしれませんが、この手の絵に関して絵柄の古さは、絵の上手下手の問題より致命的かもしれません」


 古参絵師が聞いたら泣きそうな事を言うパティ。


「えー、古いマンガの絵とかでも好きなのはあるけどなあ」


 古参絵師が聞いたら泣いて喜びそうな事を言ってフォローするミノン。


「パティの言い分も一理ありますね。コルティナが事前にこのイラストを送って来たのは、先日の大会の『エーレマークⅡ』のイラストと合わせて、『こういう感じで頼みます』、と言いたかったのでしょう。ならば、その二つと並べて違和感のないイラストを用意しなければなりません」


 泣きじゃくる古参絵師をバッサリ切り捨てるシェルシェ。もっとも古参絵師の中には、時流に合わせて絵柄をガラリと変えられるツワモノも多いのだが。


「違和感か。でも、発注したイラストをパッと見て、私達がそれを判断出来るものなのか?」


「まあ、私達が判断出来ない以上、この手の絵に詳しい者に全部任せるしかないでしょう」


 結局、「不慣れな分野は人任せが吉」、とミノンとパティが勧め、


「ではプロに一任する前に、とりあえずウチの道場生に呼び掛けてみましょうか。元はと言えば、『エーレマークⅡ』も『八代目ふわふわ魔女』もアマチュアの作品ですし、この手の絵心のある者が見つかるかもしれません」


 シェルシェも丸投げを決意し、まずは手近な人材を発掘する事にして、この萌え絵談義は終了した。


 その後運良く、萌え絵について剣術以上に得意な道場生がすぐ見つかり、


「明日までに何枚かイラストを仕上げて来ます!」


 との言葉通り、次の日にはもう六枚のイラスト案が完成し、絵心はなくともその手の萌え絵にとても詳しい何人かのオタ、もとい道場生達の意見も採り入れ、応援旗の図案があっさりと決定する。


「『萌え』という分野も侮れませんね。私達も少し勉強する必要がありそうです」


 大真面目に言うシェルシェに、「いや、勉強しなくても、生きて行く上で何の支障もありません」、とツッコめる者は誰もいなかった。

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