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その年の御三家最後の大会となるララメンテ家の剣術全国大会が近付いたある日の事、マントノン家の当主シェルシェは、本部道場の会議室に稽古中のミノンとパティを呼び出し、
「今日、コルティナからわざわざ速達でこんな手紙が送られて来ました」
と言って、怪しげな茶封筒をテーブルの上に、ぽん、と軽く放ってみせた。
茶封筒の宛名の下には、「最高機密文書」と記された真っ赤なスタンプが押されており、
「こりゃまた、妙に物々しいな」
その字面に惑わされたミノンが、ちょっとワクワクしながら封筒を手に取った。
「で、一体どんな『最高機密文書』でしたか?」
全く惑わされないパティが淡々と問う。
「『最高機密文書』などと銘打っていますが、もちろん、いつものコルティナの悪ふざけです。その内容は――」
「なんだこりゃ? 魔女のイラストが入ってるぞ!」
説明しかけたシェルシェを、封筒の中身に目を通していたミノンの素っ頓狂な声が遮る。
シェルシェは軽くため息をついてから、
「百聞は一見にしかず、ですね。ミノン、パティ、そのイラストは『エーレマークⅡ』に対抗して作られた『八代目ふわふわ魔女』だそうです」
と説明を続ける。
「八代目って事は、それまでに魔女が七代も続いてたのか」
「単にお遊びの設定でしょう。コルティナのやる事をあまり真面目に考えるとバカを見ますよ、ミノン」
「事情は大体分かりました。つまり、私達二人についてもこの様なイラストを作成して、応援旗を作ってはどうか、と提案して来たのですね?」
「その通りです、パティ。特に必然性はありませんが、当日応援に来ているファンへのサービスにはなるでしょう。この提案に従って、マントノン家でもあなた達をモデルにした応援旗を製作しようと思うのですが、何か異存はありますか?」
「ない。面白そうだから、どんどんやっちゃってくれ」
「私も異存はありません。どんな旗が出来るのか楽しみです」
元より絶対君主たる姉シェルシェの方針に逆らう事など出来るはずもないミノンとパティだが、この提案に対しては、それとは関係なく乗り気な様子で了承した。
「では、早速二人をモデルにしたイラストを発注しましょう、と言いたい所ですが」
「何か問題でも?」
「デザインに関しては全部お任せします」
「この手の可愛らしいイラストは、どこに発注すればいいのか知っていますか、ミノン、パティ?」
剣術の名門に生まれ育った若き女当主にして稀代の策士シェルシェ。
一応美術に関して一通りの教養は持っていたが、この手の萌え絵に関する知識はほぼゼロに近かった。
あまり詳し過ぎても「何だかな」な感じではあるが。




