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「それでは、『レングストン家のエーレマークⅡに対抗して、ララメンテ家でも何かマスコットキャラクターを創ろう』のコーナー!」
ララメンテ家の本部道場の会議室に呼び集められた仲間の道場生達は、そんな剣術の稽古と全く関係ないコルティナの妄言に呆れつつも、聖人の様な寛大な心で、しばしこのふざけた趣向に付き合ってあげる事にした。
「さっさと終わらせてね」
「終わったら、このまま次の大会に向けての真面目な指導をお願い」
「大会に出る選手は皆揃ってるし、ちょうどいいわ」
寛大な心の中に合理的な打算が含まれているのはご愛嬌。
「えー、レングストン家の全国大会が終わった後ー、老若男女本部支部を問わずウチの道場の皆さんにー、ララメンテ家のマスコットキャラの案を募集したところー、こんなにたくさんのご応募を頂きましたー」
そう言ってコルティナは、ホールケーキがすっぽり収まる位の大きさの段ボール箱を床から持ち上げ、テーブルの上に置いた。箱の中には応募作品と思しき紙がぎっしり詰まっている。
「という訳で、この作品を皆で一枚ずつ見て選んで行くよー。まずはこちらー」
その一番上の作品をふわふわと取り出し、ホワイトボードにマグネットで張り付けるコルティナ。
「へえ、ちっちゃくて可愛いロボットのイラストだね」
「エーレマークⅡに雰囲気が似てる。むこうは二刀流、こっちは一刀流だけど」
「でも、あんまりコルティナに顔が似てないなあ。そこがちょっと惜しいかも」
ホワイトボードにわらわらと近寄り、作品について思い思いの評価を述べ合う仲間達。
「そのロボットのモデルは私じゃないよー。資料によると、『モデルはアベリア・ベルグエンサさん』とあるねー」
自分で別途用意した資料を見ながら、ふわふわと反駁するコルティナ。
「私が!? なんで!?」
それまで他人事だと思ってのん気に構えていたアベリアが、驚きのあまり素っ頓狂な声を上げる。なるほど良く見ると、そのロボットのイラストはアベリアの特徴を的確に捉えていた。と言うか、もうアベリアにしか見えない。
「募集する際に、『マスコットキャラのモデルは、私じゃなくても誰でもいーよー。例えば、この人とかー』って参考までにアベリアの写真を見せて回ったから、その影響じゃないかなー」
にっこり笑顔で、ふわふわと説明するコルティナ。
「やめて! 特に目立った功績もないのに、こんな事されたらいい晒し者だから!」
真っ青になってホワイトボードから絵をひったくるアベリア。ちなみに先の二大会ではどちらも一回戦負けという優勝とは縁遠い無名選手である。
「応募してくれた作品は大切に扱ってねー。じゃー、次に行くよー」
特にアベリアに悪いと思っている様子もなく、箱からふわふわと次の作品を取り出し、ホワイトボードに張り付けるコルティナ。
「今度は黒のトンガリ帽子に黒のローブで、お馴染みの魔女コスプレっぽいイラストだけど」
「顔がコルティナじゃないよね、これ」
「どう見てもアベリアがモデルだわ」
「やめてえええええ!」
悲鳴と共に、またホワイトボードから絵をひったくるアベリア。
「別にそんなに気にする事ないよー。単にララメンテ家を代表するマスコットキャラのモデル、ってだけでー」
「気にするわ! そんな重責は身に余るから!」
「でも、あと二十枚程アベリアをモデルにした作品が続くよー。アベリアには何か、絵師のインスピレーションをかきたてる魅力があるんじゃないかなー」
「それは単にコルティナが私を例に出したからでしょう! 役場の書類の記入例みたいに! とにかく私をモデルにした絵は全部選考外にして、お願い!」
アベリア、ちょっと泣きそう。
「やめてさしあげろ、コルティナ」
「嫌がってるのに、無理に素人を表舞台に引きずり出すんじゃない」
「でも、モデルの例に出したのがアベリア一人で良かった。自分が同じ目に遭ったらと考えるとゾッとするわ」
動揺するアベリアを優しくいたわりつつも、ちょっと薄情な仲間達。
「力作ぞろいなんだけどなー。じゃあ、アベリアシリーズは、後で皆で鑑賞して楽しむだけに留めるとしてー、他の作品から選ぶ事にするよー」
アベリアシリーズと思しき作品群を箱から除外した後、次の作品をふわふわとホワイトボードに張り付けるコルティナ。
「またロボットだね。ちっちゃくて可愛い系の」
「ツインテールで二刀流なのね」
「って、これ、まんまエーレがモデルじゃない!」
「モデルは誰でもいい、って言ったからねー」
「絶対レングストン家から訴えられるから、却下!」
「可愛いのになー」
「そういう問題じゃない!」
「じゃあ、次ねー」
仲間達から次々と入れられるツッコミをふわふわと受け流しつつ、次の作品を張るコルティナ。
「何これ? 今度は丸太のお化け?」
「太い丸太に顔と手足が付いてるみたいだけど」
「どこかの遊園地の子供向け着ぐるみキャラっぽいわね」
「麩菓子をモチーフにしたキャラで、名前は『ふがしくん』だそうだよー」
資料を見ながら説明するコルティナ。
「剣術と全然関係ないじゃん!」
「プロスポーツのマスコットキャラではよくある事だよー。そのスポーツと全然関係ない動物とか採用してたりするしー」
「それはそうだけど、剣術関係ない代わりに、あんたが出てるCMの企業とめちゃくちゃ関係ありまくりだよ!」
「いわゆる一つのタイアップだねー」
「却下! 私達はコルティナと違ってお菓子屋の回し者じゃない!」
「麩菓子、おいしいのにー」
「次行って、次!」
こんな具合に、初めは適当に付き合って済ませようとしていた仲間達も、いつしかコルティナのペースにハマってしまい、全作品の選考を終える頃には、他にもう何をする時間も気力もなくなっていた。




