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ミノンの機転により、ちっちゃなエーレがパティの魔の手から救われた顛末について、マントノン家の書斎でシェルシェから報告を受け、
「何はともあれ、無事に終わって本当に良かった」
祖父にして前々当主のクペは腰掛けていた椅子の背に深くもたれかかり、仕掛けられた爆弾を無事解体し終えた処理班員の様に、大きな安堵の息を漏らした。
「ふふふ、ミノンにしては良い知恵が浮かんだものです。決勝戦でもその位頭を使えていれば、優勝していたかもしれませんが」
ミノンを褒めると見せかけて、エーレに敗れた事への辛口コメントも忘れないシェルシェ。
「まあ、ないものねだりをしても仕方があるまい」
本人がその場にいないとは言え、ミノンに対してちょっとひどい言い草かもしれないおじいちゃま。
「序盤ではエーレの先制攻撃のタイミングを狂わせる程、自身のリズムを巧みに変化させていたのに、乱打戦をしつこく挑まれて、いつもの一本調子に戻ってしまいました。ミノンもまだまだ修行が足りません」
「いつもの一本調子に戻れば、VRでデータ分析され尽くしたミノンが残るだけか。実際、見ていて本当に分かり易い展開だった。あるいは前回の様に、リズム云々とは関係なく無心の一撃を繰り出してくれるかと思ったが」
「無心の境地に至る前に、狙っていたかの様な突きを食らいましたね。ポイントカードを使う前に店が潰れてしまった様なものです」
「妙な例えだな。まあ、言いたい事は分かる」
「ミノンは次の大会までに、その辺をしっかり対策しておかなければなりません。エーレの他にも、次はいよいよ自家の大会では無敗を誇る、『ホームのコルティナ』と戦う事になるでしょうし」
「コルティナは小学生の時のララメンテ家の全国大会で、お前に負けた事があるだろう」
「ふふふ、その後は無敗ですよ。私は色々あって、勝ち逃げの様な形になってしまいましたけれど」
シェルシェは少し寂しげに笑い、
「ミノンには私の代理として、『ホームのコルティナ』としっかり戦って来て欲しいものです」
すぐに悪の組織の大首領の様な妖しい笑顔になって、おじいちゃまの背筋をちょっと寒くさせた。




