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トンファーを両手に持った男子学生は、それらをくるくる回しつつ、大きく上下左右斜めに振り、相手に対し左を前にして、横向きに両足を大きく開いて立ち、左のトンファーを前方下向きにまっすぐ突き出し、右のトンファーを振り上げた状態で、ぴたり、と止まる。
どう見ても素人の動きではない。一体この男子学生は何者だ。
甲冑が横薙ぎに斬りつけて来る剣を、男子学生は左のトンファーで防ぎつつ、右足を大きく踏み出し、右のトンファーで相手の胴を突く。
後方に数歩よろける甲冑を追って、左のトンファーで素早く相手の顔面を往復ビンタし、さらに両方のトンファーで胸への連続突きから、右のトンファーを下から振り上げて相手のあごを強打。
ふらつきながらも剣を鋭く振り回して来る甲冑に対し、男子学生はそれらの攻撃を華麗なトンファーさばきでことごとくブロック。逆に甲冑の方が、男子学生のトンファーを剣で受けるのが精一杯になって行く。
と、突然男子学生は攻撃をやめ、トンファーを持った両手をだらんと下げた。
コォォォ、と音を立てて大きく息を吐き、甲冑が剣を振り上げて迫って来るのと同時に、
「トンファーキーック!」
と叫びつつ、相手の腹に鋭い蹴りをブチ込む。
ドゴォォォ。
くの字に折れ曲がった甲冑の体が、後方に三メートル程吹っ飛び、激しく壁と衝突した。
トンファーキック。
凄まじい破壊力であるが、トンファーは全く関係ない。要するにただの前蹴りである。
これを見て、同じく前方にくの字に体を折り曲げたコルティナが、激しくむせつつ笑う。
「トンファー……使って……ないし……」
よほどツボだったらしい。
その間に男子学生は右のトンファーを空中に放り上げ、半回転させてから受け止め、握りが前に来る様に持ち変えた。
壁を背にして床にへたりこんでいる甲冑の元に歩み寄り、
「サイコパス野郎め。どこのどいつだか知らねえが、その汚えツラを見せやがれ!」
と言いつつ、右のトンファーのトの字に突き出た握り部分を、相手の顔面を覆うシールドに引っ掛けて、そのまま勢いよく跳ね上げた。
しかし、男子学生が驚いた事に、そのシールドの下にはあるべきはずの顔がない。全くの中空である。
中に誰もいませんよ。
「ひっ!」
画面の中の男子学生と、それを見ていたエーレが、同時に同じ悲鳴を上げる。
次の瞬間、甲冑の振るった剣が、トンファーマスター、もとい男子学生の首をスパッと刎ねた。
まず首が落ち、続いて胴体が倒れる男子学生。
その後、甲冑はゆっくりと立ち上がり、顔面のシールドを下ろすと、カシャン、カシャンと音を立てて、部屋から出て行った。
それはそれとして、後に残された男子学生の首なし死体が、両手にトンファーを握ったままなのが妙におかしい。
剣や銃に比べ、マイナーな武器からは、どうしてもユーモラスな雰囲気がにじみ出てしまうのだ。