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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十四章◆◆ 圧倒的な才能と最新鋭の技術と天賦の洞察力との三つ巴戦について

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439/638

◆439◆

「高校生の部の最後の大会を、こうして優勝で飾れた事を心から嬉しく思います」


 どこぞのふわふわ魔女の様にウケ狙いに走る事なく、真面目に優勝インタビューを受けるエーレ。


「稽古に際して技術面で色々とバックアップをして頂いたアウフヴェルツ社の皆さんに、この場を借りて改めて御礼申し上げます。本当にありがとうございました」


 お風呂CMの一件ではひどい裏切りにあったアウフヴェルツ社、もっと言えばエーヴィヒ個人に対し、私怨に囚われる事なく仇を恩で返す寛大なエーレ。


 その後も、共に戦った仲間達や外部から参加した選手達の健闘を称え、大会運営スタッフと会場まで足を運んでくれた観客達に感謝し、次のララメンテ家の大会への意気込みを表明して無事にインタビューを終えたエーレは、鳴りやまぬ拍手としつこいエーレマークⅡコールを浴びながら、


「本当の地獄はこれからだわ」


 と、こっそりつぶやいた。


 ホームでの優勝、しかも高校生活最後の大会、VR特訓に関する世間の興味、お世話になっているアウフヴェルツ社への義理立てなどを考えれば、流石に今回ばかりはこのまま会場を出て本部道場へこっそり帰るという訳にもいかない。


 会場の外で待ち構えている多くのマスコミ関係者を相手に、少しばかり愛嬌を振りまいておく必要がある。もちろん、それ自体は別段問題ない。


 問題はマントノン家の変態三女パティである。


 ここぞとばかりに乱入し、「今をときめく美少女剣士のツーショット」を記者達にサービスすると見せかけて、反撃出来ない状態のエーレへ痴漢行為を働く事は間違いない。


 どうしたものか、と頭を悩ませながら控室に向かうエーレに、


「いつも妹がご迷惑をかけてすみません」


 パティの姉であるミノンが急いで近寄って声を掛け、


「こちらも色々と暴走を抑えようとしてはいるんですが、あの通りすばしっこいもので。そこで万一の時に備えて、私に一つ策があるんですが」


 ちっちゃなエーレにある提案を申し出ると、


「突飛な奇策だけれども、あの子の襲撃を防ぐのに効果はありそうね」


 エーレもこれを了承する。


 その後しばらくして、外でエーレを待ち構えていた記者団は、ちっちゃなエーレが巨大なミノンに肩車された状態で会場から出て来るのを見て、


「かわいい!」

「まるで親子だ」

「むしろ、怪獣にしがみつく子供に見える」


 明日の紙面のトップはこれだ、とばかりにフラッシュの雨を浴びせ始めた。


 マントノン家の関係者に周囲を固められ、それでもちっちゃなエーレをモフる為に抜け出すチャンスを窺っていたパティも、巨大怪獣ミノンに肩車されたちっちゃなエーレを遠巻きに眺めて、


「可愛いわあ! でも、あれだと手が出せないじゃない!」


 記者会見への乱入及びエーレへの痴漢行為を断念せざるを得なかった。 


 こうしてエーレとミノンは、終始合体した状態で記者達の質問に応じ、ニュース番組のスポーツコーナーでもこの肩車の映像が大々的に放映される事になる。


 結果、ちっちゃなエーレは巨大なミノンと対比される事でますますちっちゃく見えてしまい、


「何かしら。この試合に勝って、勝負に負けた気分は」


 帰宅後、ちっちゃなエーレはテレビの前で少し肩を落としたという。

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