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さながら戦闘ロボ対巨大怪獣という趣のあった決勝戦終了後、試合場中央で抱き合って笑顔で互いの健闘を称え合うミノンとエーレは、試合中とは打って変わり、童話に出て来る仲の良い巨大グマと子リスの様にほのぼのとした雰囲気を醸し出していた。
「流石、戦闘ロボエーレマークⅡの名はダテじゃありませんね」
実際には無邪気な笑顔のミノンと、
「そんな戦闘ロボはどこにも存在しないわ」
少し引きつった笑顔のエーレという構図ではあったが。
「でもかっこいいじゃありませんか、あの応援旗に描かれたロボットの絵は」
「ねえ、ミノン。もし応援旗に自分をモチーフにした巨大怪獣の絵が描かれてたらどんな気分?」
「テンション上がりますね!」
「ごめん、あなたに聞いたのが間違いだった」
「怪獣とか戦闘ロボとか、聞くだけでワクワクしませんか?」
「しないわ。剣術の試合とは全く関係ないでしょう」
「この試合、私はエーレさんを戦闘ロボだと思って戦ってました」
「そう思うのはやめた方がいいわ。生身の剣士に勝る戦闘ロボはまだ開発されてないから」
「科学技術は日進月歩です。いずれアウフヴェルツ社から、生身の剣士に打ち勝つ性能を持った戦闘ロボ『エーレマークⅢ』、『エーレマークⅣ』が開発されるかもしれません」
「考えるだけで頭が痛くなる光景を想像させないで。って言うか、エーレマークⅡから離れて」
「考えるだけでワクワクが止まりません」
「人の話を聞きなさい」
「とりあえず、今はこのエーレマークⅡさえあればいいです」
「だから、そんな戦闘ロボはどこにも存在しないのよ!」
リアルとフィクションの区別がつかない小さな男の子に、なんとかして現実を教えようと試みる母親の様に頭を悩ますエーレマークⅡだった。
「エーレマークⅡ! エーレマークⅡ!」
おまけに観客席からは、まだエーレマークⅡコールが続いている始末。




