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害虫を駆除するのに同じ殺虫剤を使用し続けていると、やがて害虫の方に耐性が付いてしまい、いつしかその殺虫剤が効かなくなる事があるという。
この例えをそのままうら若き女子高生が競い合う剣術大会に当てはめてよいかどうかはさておき、序盤にかなりの効力を発揮したレングストン家の量産型ロボットによるふわふわ魔女狩りも、試合が進むにつれ、逆にふわふわ魔女にロボがあっさり狩られる場面が多くなって来た。
「段々コルティナの調子が上がって来たな。もうレングストン家の選手は一本も取れなくなってる」
「皆で同じVRを使って編み出したコルティナ攻略法を使い回してたら、そりゃすぐに手の内を読まれるわ」
「戦いながら攻略法の攻略法を完成させちまったのか。流石、エディリアきっての『ふわふわ分析魔』だ」
観客達も、今日まで必死に特訓して来たであろうレングストン家の選手達に同情しつつ、コルティナの並外れた分析眼と剣才に改めて脱帽する。
そして迎えた大会終盤、このしぶとい害虫、もといコルティナを倒すべく、いよいよレングストン家の最終兵器が出撃した。準決勝戦でコルティナとエーレの令嬢対決が実現したのである。
コルティナとエーレが試合場に進み出ると、
「ふわふわ魔女、頑張れー! ふわふわの魔法でエーレマークⅡをふわふわにしちゃえー!」
「行けー! エーレマークⅡ! ふわふわ魔女からレングストン家の平和を守るのだー!」
待ってましたとばかりに興奮した観客達が悪ノリを始め、格式を重んじるレングストン家の剣術全国大会は、さながら子供向けヒーローショーの様相を呈して来た。
「なんだろうね、このおかしな盛り上がり方」
「レングストン家の大会が、コルティナのノリに侵食されてるとしか言いようがないわ」
「何か向こうの運営さんに申し訳ない気がしてきた。ウチの大会ならともかく」
周囲が盛り上がれば盛り上がる程、冷静になってしまうララメンテ家の選手達。ある意味、よそ様に迷惑を掛ける問題児の母親になった気分である。「ウチの子がまたやらかして、本当にどうもすみません」的な。
「でも、こうなると、あそこでひるがえってるエーレマークⅡの応援旗が、いい感じに仕事してるね」
「うーん、やっぱり、ウチもあれに対抗出来るモノを用意しておくべきか」
「じゃあコルティナの言うとおり、今度の大会までにイラストを用意しておこう」
それでもきっちりしょうもない事にこだわりを見せる辺り、問題児コルティナにしっかり毒されている。




