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妹のパティを封じたレングストン家のVR特訓法が、はたして姉のミノンにも通用するのか。
そんな問いに対するヒントを示してくれるであろうミノンの第一戦、上段に大きく剣を振りかぶったこの「巨大怪獣」の堂々たる構えに対し、対戦相手のレングストン家の選手は、ぎこちなくせわしなく剣を様々な角度に変えながら果敢に立ち向かう。
「パティの時と同じだ。あのロボットみたいな動きの一つ一つに、『巨大怪獣』を封じる秘策があるんだろうよ」
観客達がざわついている所へ、ミノンが突如前に飛び出し、電光石火の如き一撃を相手の頭上に落とす。
が、レングストン家の選手は瞬時にこれを自分の剣で下から弾き、続けざまにその反動を上手く利用して、ミノンの右手へ文句のない一打を与え、これが一本と認められる。
この見事なカウンターに観客席は大いにどよめき、
「こりゃひょっとすると、エーレマークⅡが出撃する前に、量産型ロボットが巨大怪獣を倒しちまうかもしれないぞ」
このレングストン家の選手への期待の声が湧き起こったが、いくらミノンに比べて無名に近い選手とは言え「量産型ロボット」呼ばわりはいかがなものか。
両者初期位置に戻って試合再開となり、さっきと同様、再び剣を上段に構えたミノンに対し、レングストン家の選手もロボットの様な動きでこれと対峙する。
しばしにらみ合った後、またしてもミノンは前に出て剣を素早く相手の頭上に振り下ろし、レングストン家の選手もまた、下からこれを弾かんと試みる。
が、今度はタイミングが合わず、レングストン家の選手の剣が空しく宙を切った後、一瞬の間をおいてミノンの剣が的確に相手の頭上にヒットした。
「惜しい。今のは防御のタイミングが早過ぎたか」
「だが、ミノンもカウンターを決められた直後に、全く同じ技を迷いなく出せるんだから、大した度胸だよ」
「あるいは何も考えずに、怪獣の本能で戦ってるのかもしれないが」
ミノンの技に感心しつつ、言いたい放題の観客達。
その後、両者初期位置に戻ってから、また同じ様に「巨大怪獣VS量産型ロボット」の構図でにらみ合いを始め、また同じ様にミノンが上段から真っ向に斬りつけた。
レングストン家の選手は、何とか防御に成功するものの、そのまま鍔迫り合いに持ち込まれ、「巨大怪獣」ミノンの有り余るパワーにグイグイ押されまくって後退を余議なくされ、背後に倒れずにいるのがやっとの様子。
と、押しまくっていたミノンが突然身を引くと同時に、バランスを崩したレングストン家の選手の右手に素早い一打を浴びせ、これが一本と認められて試合終了。
敗れはしたものの、この「巨大怪獣」から最初に一本奪った量産型、もといレングストン家の選手には、観客席から温かい拍手が湧き上がった。
試合を終えて戻って来た彼女を、レングストン家の仲間達と共にエーレが労いつつ、
「ミノンはリズムをかなり意識して変えてたわね」
と確認する。
「え、そうだったの。道理で上手く行かなかった訳だわ」
言われて初めて気付いた様子の選手。
「直接打ち合ってて、気付かなかった?」
「いや、もう夢中だったし」
時として当事者より外野の方が、状況がよく見えていたりする。




