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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十四章◆◆ 圧倒的な才能と最新鋭の技術と天賦の洞察力との三つ巴戦について

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◆428◆

 大会終了後に会場の外で仲間達と中学生の部の優勝の喜びを分かち合っていた正にその時、突然どこからともなく現れたパティに執拗にセクハラされまくり、色々台無しにされてご機嫌斜めのまま帰宅したエーレを、今度は一足先に会場を出てレングストン家の屋敷を訪れていたエーヴィヒが出迎えた。


 エーレはややうんざりした表情でエーヴィヒを見上げ、


「一難去って、また一難です」


 つい、八つ当たりじみた事を口にしてしまう。


「ええ、まだ高校生の部もありますからね。ですが、まずは中学生の部の優勝おめでとうございます」


 それを華麗にスルーして、微笑むエーヴィヒ。


「ありがとうございます。まるで私が中学生の部で優勝したかの様な言い方が少し気になりますが」


 中学生どころか小学生でも十分通るちっちゃなエーレは、ちょっと被害妄想気味。


「優勝されたゾッケさんはもちろん、他の選手の方々の見事な活躍を、我が事の様に嬉しく思っています。我が社のVR機器が、少しでもお役に立てたのであれば幸いです」


「それに関しては本当に感謝しています。あの勢いに乗る変態、もといパティの侵攻を食い止める事が出来たのも、エーヴィヒさんを始めとするアウフヴェルツ社のスタッフの皆さんのご尽力のおかげです」


 観客席では、「他のスタッフはともかく、あの変態には感謝しなくていいから」、などとエーヴィヒをディスっていたエーレも、本人を前にしてそんな悪態をつくのはいかにも子供っぽいし、名門の令嬢としての品格にも欠けると承知しているので、普通に礼を述べている。


 何よりその手の子供っぽい悪態は、この変態を逆に喜ばせてしまう。


「そう言って頂けて何よりです。ユーザーのお役に立てる製品を提供する事が、メーカーの人間としての喜びであり誇りなのですから」


「私達が剣術に誇りを持つ様に、あなた方は自社製品に誇りを持っているのですね」


 揶揄でない真面目な意見を聞いて、少し表情が晴れるエーレ。ただ、まだ他人行儀な口調のままではあるが。


「はい、と言いたい所ですが、時には誇りを抑えて、納得の行かない出来のまま泣く泣く製品を出荷せざるを得ない事も多々あります。今回も実を言えば、もっと時間を掛けてVRモデルをより精度の高い物に仕上げたかった、というのが本音です」


「文字通り、寝る間も惜しんで短期間でここまで仕上げて頂いたのですし、ユーザーとして特に不満もありません。私達も限られた時間で精一杯努力するしかありませんでしたが、中学生の部に関しては、何とかご尽力に報いられたのではないかと思っています」


「『何とか』ではなく『予想以上に』です。この調子で高校生の部も頑張ってください。では、今夜はこれで失礼します」


 エーレの負担にならぬ様、自らの欲望を抑えて、すぐに帰るそぶりを見せるエーヴィヒ。


「エーヴィヒさんも、ご無理をなさらぬ様、お体にはどうぞ気を付けてくださいね」


 帰ると聞いて、にっこり笑って追い出しに掛かるエーレ。今日は何事もなく冷静に対処出来た私ってオトナよね、というドヤ顔に見えなくもない。


「『たゆまぬ努力は天才に勝つ』、私もその通りだと思います」

「な……! 盗聴してたのかっ!」


 しかし去り際、エーヴィヒがいたずらっぽく笑いながら言った一言に、不意を突かれて過剰反応してしまうエーレ。


「『毒を吐くのは愛情の裏返し』ですよね?」

「やかましいわ! 自社製品を悪用するんじゃない!」


 そんなエーレの他人行儀をかなぐり捨てた悪態を受けて、満足して帰るエーヴィヒ。悪気はない。多分。

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