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マントノン家の屋敷の書斎で前々当主にして祖父のクペに、大会決勝におけるパティの敗北について報告し、
「ついにレングストン家の『VR秘密特訓』も、実用段階に入ったと言っていいでしょう」
と分析する、現当主にして孫娘のシェルシェ。その表情は穏やかで微笑すら湛えているものの、目がちょっと怖い。
「優勝したゾッケだけでなく、他のレングストン家の選手達も、パティをかなりの所まで追い込んでいたな。先の大会の惨敗から、短期間でよくぞここまで立て直したものだ」
机の向こうで椅子の背に深くもたれながら、今日の試合を振り返る様に目をつぶり、そのままシェルシェに答えるおじいちゃま。あるいは単に孫娘の目が怖かったのかもしれないが。
「ええ、敵ながら見事なものです。ただ、逆の見方をすれば今日の大会は、レングストン家の選手がパティの弱点を一つ一つ丁寧に指摘してくれた様なもの、とも言えます」
そう言って、より一層妖しく微笑むシェルシェ。怖さが倍増する。
「確かにあのパティの動きに対応するあからさまな一挙一動は、マンツーマン指導に似ていたかもしれん」
「『こう構えられたら、そちらからは打ち込めまい』、『こう下がられたら、タイミングが崩されるぞ』などと、実に分かり易く教えてくれていましたね」
「今回の指導をどう活かすかは、次のララメンテ家の大会で見せてもらう事にして」
おじいちゃまはようやく目を開いて心配そうに、
「そのパティは今どこにいる?」
と尋ね、
「地下室です」
シェルシェの一言で全てを察し、
「そうか」
それだけ言って再び目を閉じ、大きなため息をついた。
「自家の大会で無事優勝した事もあって、警戒心が緩んだのか、すぐ帰らず会場の外で選手達と共に喜びを分かち合っていたエーレを、パティが獲物を狙う鷹の様に急襲して」
「もういい。聞きたくない」
頑なに目を開けようとしないおじいちゃま。




