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「また、おかしな横断幕掲げてるわ。コルティナの暴走を周りの人達が止められないのね」
双眼鏡でコルティナとララメンテ家の応援団の表情を交互に観察し、大体の事情をすぐに察するちっちゃなエーレ。
「でも今回のはちょっと際どいかな。ウチの大会を宣伝に利用してるとみなされかねない」
その隣では、親友のティーフが敵方の応援団の心配をしている。大きな体をしているが、割と小心者。
「コルティナはギリギリで見逃されると踏んだ上で、際どい所を攻めて来てるのよ」
「剣の間合いの見切りに通じるものがあるな」
二人が視線を試合場に戻すと、ちょうどパティとララメンテ家の選手が鍔迫り合いをしている所である。
やや長めの膠着状態が続いた後、ララメンテ家の選手が素早く離れると同時にパティの頭部へ鋭く打ち込むが、パティはこれを剣を横にして受け、そのまま流れる用に相手の左手を狙う。
が、ララメンテ家の選手は後ろへ大きく跳ねる様に飛んで、これを避ける。
「今の、よくかわせたわね」
「ああ、まるでパティの剣がそこに来るのを分かっていた様な、思いきった後退だった」
素直に感心するエーレとティーフ。
「今のだけじゃなく、動きの一つ一つの思いきりがいいのよね。迷いがない」
「コルティナさんのデータ分析の賜物かな」
「ああやって観客席で魔女のコスプレをしたり、巨大サイズのお菓子を食べたり、意味不明な横断幕を掲げたりしてしょうもない道化を演じているけど、指導者としてのコルティナは本物よ」
「天才は変わった人が多いと言うけど、あの人を見てると、さもありなんと思う」
「もっとも、もしコルティナがまったくふざけずにずっと真面目な態度でいたら、周囲の人はものすごく居心地の悪い思いをするでしょうね。何もかも心の奥底まで見抜いてしまう怪物がそばにいたら、怖くて逃げ出したくなるもの」
「だから、あえて道化を演じてるのかな。恐怖感を抱かせない様に」
「まあ、あのマイペースは天性のものでもあるんだけど。マイペース過ぎて、出演していたテレビ番組を降板させられたし」
「ああ、そう言えば、そんな事もあったな」
「番組制作側の意図を無視して、好き放題やらかすからよ。その点、パティは制作側の意図に従ってくれるから、今でもよくテレビに出てるわ」
「まだ中二なのに、大したものだ」
「危険度で言えば、本当はパティの方が上なんだけど。邪悪な本性が隠れてる分、タチが悪いって言うか」
エーレに酷評されている当のパティは、長い睨み合いを経た後、不意に一歩大きく前に出、水平に弧を描く様に放った剣で、ララメンテ家の選手の右胴を捉えて一本を取った。
そのまま時間切れとなり、パティの判定勝ちが確定する。
互いに一礼の後、防護マスクを外し、相手選手に抱きついて過剰なスキンシップに興じるパティを見ながら、
「まだ中二なのに、とんでもない変態よ」
軽く身震いするエーレ。




