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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十四章◆◆ 圧倒的な才能と最新鋭の技術と天賦の洞察力との三つ巴戦について

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420/638

◆420◆

「じゃ、そろそろお待ちかねの横断幕いくよー」


 大会も中盤に差し掛かり、観客席で巨大えびせんを食べながらララメンテ家の応援をしていたふわふわ魔女ことコルティナが、余計な事をやらかして周囲の仲間達にムダな不安を与える時間がやって来た。


「あまり変なのはやめなさいよ」

「笑いを取るのと、単に笑い者になってるのとは違うんだからね」

「こういう応援用の横断幕は普通が一番なの。普通が」


 巻き添えを食って世間からイロモノ扱いされるのは勘弁して欲しいと切に願う仲間達。それはまるで、バラエティー番組に出演したが為に、世間からお笑い芸人扱いされてしまう中堅ミュージシャンの様。


「はい、そっち持ってー。まだ広げないでねー。他のお客さん達の注目を十分に集めてから、一斉にバッと広げて笑いを取るのー」


 そんな仲間達の忠告に耳を貸そうとせず、マイペースでふわふわと事を進めようとするコルティナ。


「せめて、何が書いてあるのか事前に教えなさい」


「プレゼントの箱はねー。開けるまで何が入ってるか分からないからワクワクするんだよー」


「いや、その箱の例えで言うと、爆発物とか炭素菌とかの類が入ってないかハラハラしてるんだけど」


「大丈夫、私はこの巨大な会場に集まった数万の観衆を虐殺したい訳じゃないからー」


「さらっと不穏な事を言うな。でも、こういう場所でそういうテロが起こったら大変よね」


 改めて巨大会場を見回せば、観客席を埋め尽くす数万の観衆が、「大道芸人」パティの試合の度に歓声を上げ、熱狂の渦に身を任せている。


 自分達の身の安全について、何の疑問も持たずに。


 その状況の危うさに、ふと我に返る仲間達に、コルティナはふわふわとした笑みを浮かべて、


「その手の無差別テロをやるとしたら、旧政府派か反政府派だけどー、どっちも今は大人しくしてるから可能性は低いねー。やるとしてもー、いきなり大量虐殺系は、大衆を敵に回して自分達の首を絞めるだけだしー」


 楽天的ではあるが妙に説得力のある言葉を与え、またお祭り気分へ引き戻す。


「四年前のハイジャック事件から、大きいテロは起こってないわね、そう言えば」


「乗客に変装してたニンジャが、あっと言う間にハイジャック犯を制圧したって噂があるよねー。この国の平和は今、ニンジャが守ってくれているのかもしれないよー」


「なら、安心だわ。この会場にも観客に紛れて、ニンジャが何人か潜伏してたりして」


「実は私もそのニンジャの一人でー」


「ニンジャがこんな目立つ真似するか!」


 折りたたまれた謎の横断幕の端をつまんでいる仲間達から、激しくツッコまれるコルティナ。


 ただし、彼女達がニンジャが実在すると信じて疑わない事に対しては、誰からもツッコミが入らない。ニンジャはエディリア国民にとって都市伝説を越えたリアルなのである。


 そんなニンジャ談義が一段落した後で、コルティナの合図と共に広げられた横断幕には、

 

「アットホームな道場です ララメンテ家」


 と、ブラック企業の求人広告の様な文が書かれており、観客達から卑怯な笑いをもぎ取っていたが、


「ウチの道場の印象が悪くなる様な事をするんじゃない!」


 首謀者のコルティナは、再び仲間達から激しくツッコまれていた。

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