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中身は呪われた剣士の亡霊の癖に、妙に普通の人っぽく滑って転んで仰向けに倒れた甲冑。
甲冑が起き上がらない内に、その脇を通り抜けて元来た方向へ逃げようとする、学生四人と大学教授。
絶体絶命の危機から何とか脱出出来た、と安心したのも束の間、最後尾にいた大学教授が、
「ぎゃあああ!」
と、突然悲鳴を上げて前のめりに倒れた。半身を起こした甲冑に、左の足首を剣で切断されたのである。
学生達が立ち止まって振り返り、助けようとして駆け寄ったが、
「来る……なっ! きみ……たち……だけでも、逃げるん……だ!」
と、激痛に耐えながら苦悶の表情でそれを制し、漢を見せる大学教授。
「でも、教授を見捨てる訳には行きません!」
女子学生の一人がそう言いながら、屈みこんで手を差し伸べた瞬間、目と鼻の先で大学教授の首が刎ねられて、ふわっ、と宙に舞い、同時に、びしゃっ、と大量の血が飛沫となって、彼女の前面を赤く染める。
血塗れになった女子学生は甲高い悲鳴を上げると、教授の死体を見捨てて脱兎のごとく逃げ出した。
もう泣きそうな顔になって怖がっているエーレの横で、コルティナは、
「掌返すの早っ!」
自分の膝をバシバシ叩きながら笑いこけている。
そのまま一人、廊下を物凄いスピードで走り抜け、とある部屋に入って後ろ手に閉めたドアを背に、ズルズルと床にへたり込む女子学生。
と、廊下側から微かに、カシャン、カシャン、という金属音がこちらに近付いているのが聞こえて来た。
女子学生は床にへたりこんだまま体の向きを変え、恐怖の表情でじっとドアを見据える。
……カシャン、カシャン、カシャン。
そして部屋の前で金属音が止まった。
女子学生は目をぎゅっと瞑って両手で自分の口をふさぎ、恐怖に怯えながらも必死に音を立てまいとする。そんな緊張で張り詰めた時間がしばらく続いた後、
カシャン、カシャン、カシャン……
何事も起こらないまま、金属音は遠ざかって行った。
ほっと安堵の息を漏らし、ゆっくり立ち上がると、改めて自分が逃げ込んだ部屋を見回す女子学生。
「あら、あんな所にシャワールームが」
自分が今、血を浴びて真っ赤である事を思い出した女子学生は、その部屋に付いているシャワールームへ迷わず直行、血だらけの服をさっさと脱いで全裸になると、そのやたらスタイルのいいわがままボディを洗い流し始めた。
既に五人が殺されている屋敷に閉じ込められ、今も得体の知れない甲冑に追われているという、かなり切羽詰まった状況下でありながら、気持ちよさそうによそん家のシャワーを浴びるという、そのあまりにも自然な流れに、呆気に取られているエーレの横で、もう笑いが止まらなくなっていたコルティナは、
「この脚本書いた人、絶対頭おかしい」
と、物凄く褒めていた。
この手の映画では最高の褒め言葉なんです、これ。




