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巨大会場に詰め掛けた観客の大半は、先日のマントノン家の大会に続いて今日も「大道芸人」パティの華麗な剣技に酔い痴れようと、サーカスにやって来た子供達の様にワクワクしながら待ち構えていたのだが、
「あれ、中々一本決まらないな」
「もしかして動きを読まれてないか、パティ」
「あ、やっと右胴に入った。このまま時間切れで判定勝ちか」
その数万人分の期待を一身に背負った初戦、パティはレングストン家の二年生相手に、意外な苦戦を強いられていた。
かろうじて勝ったものの、いつもの「大道芸人」らしくないパティに観客達がざわつく中、
「うふふ、案の定、エーレがドヤ顔になってるー。『最新データさえ揃えばこっちのものよ!』って言わんばかりにー」
黒いトンガリ帽子に黒ローブ姿という、いつもの魔女コスプレでララメンテ家の選手達を応援していたコルティナが、双眼鏡を試合場ではなく観客席の方に向けながら、楽しそうに周りの仲間達へ報告する。
「あの対戦相手の子は、この前の大会ではパティと序盤に当たって瞬殺されてた選手よね」
「特に目立った選手でもなかったのに、今の試合だとまるで別人みたい」
「噂のレングストン家の最新VRを使った特訓が、ここに来て効果を発揮したって事?」
仲間達がコルティナに解説してもらおうと、視線をじっと注ぐと、
「今日はねー、この前の巨大どら焼きに続いて、巨大えびせんを持って来たんだよー」
ふわふわ魔女は足元の紙袋から、顔が隠れそうな位の大きさの薄い小判型のえびせんを一枚取り出した。
「質問に答えろ!」
早速、仲間達から総ツッコミが入る。
「皆の分もあるからねー、一枚ずつ取っていってー」
ツッコミをスルーして、巨大えびせんが詰まった紙袋を隣から回し始めるコルティナ。
「これ食べた事あるわ。お祭りの屋台で」
「ソースで絵を描くんだよね」
「シロップを塗って、そこにチョコチップをまぶして貼りつけたりもしたなあ」
とりあえず、全員にえびせんが行き渡ってから、
「で、どうなのよ。レングストン家はパティへの対策を完成させたと見ていいのね?」
仲間の一人が改めて問う。
「だねー。この前みたいにカウンター狙いの特攻は仕掛けて行かないけれど、パティの攻撃はことごとく的確に防御してたからー。パティも慎重になって、視聴者サービスをやめて様子見を決め込んでるしー」
「事によったら、パティを倒す可能性もあると思う?」
「ないとは言わないけど難しいねー。パティは『大道芸人』である前に、勝利にこだわる剣士でもあるからー」
謎かけの様な事を言うコルティナにララメンテ家の応援団が煙に巻かれている頃、遠く離れた場所でエーレは、
「パティはそう簡単には負けないわよ。勝てば勝つほど、たくさんの女の子と健闘を称えると見せかけてベタベタ出来るから」
変態の本質に関して、レングストン家の仲間達に簡潔な説明を行っていた。
もっとも、仲間達は仲間達でそんなエーレを、『やっぱりちっちゃくて可愛いなあ、ベタベタしたいなあ』、などと子猫を可愛がる様な目で見ていたりするのだが。




