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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十四章◆◆ 圧倒的な才能と最新鋭の技術と天賦の洞察力との三つ巴戦について

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◆417◆

 かねてからの約束通り、マントノン家の悪の大首領、もとい女当主シェルシェから、同家の大会の警備員のバイトに参加した「全国格闘大会推進委員会(仮)」のメンバー全員に、レングストン家の大会の中学生の部と高校生の部のチケットがタダで進呈された。


 今やエディリアにおける超人気イベントの一つであり、非常に入手困難な為、転売すれば額面の十倍以上で売れるチケットであったが、「全国格闘大会推進委員会(仮)」のメンバーの誰一人としてその様な軽率な真似をするものはいない。


「ここまでお世話になってるシェルシェさんに、そんな恩を仇で返す様な事は出来ない」

「ってか、恩を仇で返してタダで済む相手じゃない。転売したのがバレたが最後、二度と格闘界でメシが食えなくなる」

「じゃ、全員強制参加な。どうしても都合が悪い場合は誰か暇な門下生に行かせろ。念の為、チケットの半券はアリバイとしてとっておくように」


 そこだけ聞くと嫌な集会に無理やり参加させられる閉鎖的な村の青年団のノリだが、もちろんこのイベントを観戦出来るのは非常にラッキーな事であり、中学生の部の当日は誰一人欠ける事なく、全員ノリノリで巨大会場へと足を運んだ。


「今日は客だから気楽なもんだぜ。警備員は大変だろうけど」

「観客席を見渡す限り、人、人、人だもんな。これだけの人数が暴動を起こしたら、小さな町の一つや二つ軽く陥とせるんじゃねえか?」

「で、これだけいる観客のお目当てが、マントノン家の三女ただ一人なんだから、考えてみりゃすげえ話だ。何かもう、俺達とは別世界の人間なんだろうよ」


 メンバー達は、テレビの画面越しでは味わえない、巨大会場に集まった数万人規模の観客の熱気をその身に感じ取り、


「でも、ま、商売の事は抜きにして、こういう学生の大会っていいよな。ただもう、がむしゃらに自分の好きな事をやってられる、っていうか」

「ああ、若いっていいよなあ。こういう大会見てると、学生時代に戻りたくなる」

「俺にもあんな頃があったんだと思うと、何か泣けてくらあ」


 思い出補正によって美化された自分達の過去を回想しつつ、


「あの頃は、自分が道場経営に乗り出して失敗して多額の借金を抱えるとは思わなかった」

「一過性の武芸ブームに惑わされずに、地道にカタギになってりゃ、また違う人生もあったかもな」

「でも、武芸ブームの頃は、『俺は格闘一本で一生食ってく』って本気で思ってたんだろ? 俺もだ」


 今更やり直せない人生を軽く後悔している内に、選手達が入場。その中にパティの姿を認めるや、場内は急激に盛り上がる。


「流石『大道芸人』パティだ。一人で全部持ってっちまった」

「こうして観客席から生で見ると、本当にあの子がスターなんだってのがよく分かるな。他の選手達とオーラが違う」

「俺達の人生の半分以下の年齢のお嬢ちゃんが、俺達の何万倍も稼いでるんだから、たいしたもんだ」


「でもよ、やっぱり、スターって言っても、あれは何か一つの道を究めようとしている武芸者の顔だぜ」


 他のメンバーが愚痴っぽくなる中、双眼鏡でパティの顔を見ていた一人が、そんな事をぽつりと漏らす。


「どれどれ、俺にも見せろ」

 

 双眼鏡を皆で回し、一通りパティの顔を観察した後で、


「確かに邪念がない、いい目をしてる」

「ただもう、余計なことを考えずに、早く他の選手達と戦いたくて仕方がないって顔だな」

「俺達も若い頃はあんな顔してたんだろうな」


 その表情を、同じ武芸者として好意的に解釈するメンバー達。


 一方、別の場所からパティを観察していた、レングストン家のエーレは、


「相変わらず邪念に満ちた顔ね。周りの女の子達を見る目が妙にいやらしいわ」


 と、自らの経験に基づいた、あまり好意的でない解釈をしていたのだが。

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