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レングストン家の大会に向けて対策を練るべく、ララメンテ家の本部道場の会議室に集まった中高生の選手達を前にして、
「ウチも何か最新機器を導入して秘密特訓をやってみたいねー。剣士ロボットとか、剣士養成ギプスとかー」
その指導に当たるふわふわ魔女ことコルティナが、対策を練らずにまたしょうもない事を言い出した。
「ウチにはそんな技術も予算もないでしょうに」
「レングストン家にはアウフヴェルツ社がついてるからね」
「よし、コルティナもどこかのパソコンメーカーのお偉いさんを誘惑してくるんだ。で、技術と予算をゲットする、と」
ウチのふわふわお嬢様が最初から真面目な指導をする訳がない、とあきらめている選手達は、コルティナの戯言にしばらく付き合ってあげるだけの優しさを発動させた模様。
「それは出来ないねー。私にはマントノン家の次期当主ヴォルフ君という、心に決めた殿方がいるからー」
「四歳児相手に何言ってんだお前」
「愛があれば年の差なんてー」
「ヴォルフ君が二十歳の時、あんたは三十四よ、三十四」
「女は三十からだよー」
「何が悲しくて、地位も財産も未来もあるマントノン家のプリンスが、三十四のおばはんと結婚しなきゃならないの」
「うふふ、今のセリフ、自分が三十四になった時に思い出してごらーん。絶対心に大ダメージを負って、後悔するからねー」
「うん、今のは言葉の綾でちょっと言い過ぎた。三十代でもすっごくキレイで若々しい人もいるし、結婚が悪いって言ってるわけじゃないの。でもヴォルフ君がお相手を選ぶとしたら、自分に年が近い若い子の方がいいでしょうって話」
「一理あるねー。じゃあ、今からヴォルフ君を熟女マニアに教育しよー」
「絶対、シェルシェに殺されるわ。ってか、熟女マニアって、あんた」
「恋愛は困難があった方が燃えるしー」
「ガソリンぶっかけられて燃やされるかもね。コルティナが」
「やれやれ、シェルシェのブラコンにも困ったもんだねー」
「幼児を熟女マニアに洗脳しようとする変態女に言われたくないと思う」
「ヴォルフ君は間違いなくシスコンにされるねー。早く何とかしないと取り返しのつかない事に」
「取り返しがつかなくなるのはあんたの頭だよ。そうなる前に戻って来い」
「戻るってどこへー?」
「とりあえず、今はレングストン家の大会に向けて皆を指導する事かな」
「そっか。じゃあ、始めようかー」
まわりくどい与太話を経由して、ようやく本題に入る気配を見せるコルティナ。ほっとする選手達。
「次の大会の最強の敵は間違いなくエーレ。マントノン家の大会で、序盤にミノンと当たって敗れたものの、試合内容は決して悪くなかった」
急に口調まで変えて真面目に解説を始めたコルティナに対し、選手達は面食らいつつも、すぐに心のギアを入れ替えて真剣な表情でこれを聞く。
「ミノンとの一戦を見た人は分かると思うけれど、最初に狙い澄まして一本取ったのに、その後、乱打戦で二本取られて負けてたのは、ミノンに関する最新データが不足していて対策を誤った証拠。次にミノンと戦う事があれば、エーレはもっと慎重策を取るでしょうね。さらに言えば――」
コルティナはしばらく、エーレの剣術に関する分析について滔々と語っていたが、
「それはさておき、エーレとエーヴィヒさんの仲がどこまで進展してるのかが気になる所だよねー」
不意にいつものふわふわな口調に戻ってちょくちょく話を脱線させるので、その度に心のギアを入れ替えるのに忙しい選手達だった。




