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「結局、試合の直後なのに試合の話題にほとんど触れないまま、最後までCM談義に興じてしまいました」
エーレ、コルティナという二大強豪を破り、大会を制して三年ぶりにマントノン家の高校生の部の名誉を回復したミノンは、姉にして現当主のシェルシェと共に屋敷の書斎へ赴き、祖父にして前々当主のクぺに直接優勝報告を行った。
その屈託のない笑顔には、広い庭を駆け回って男の子の様にセミやトンボを捕りまくり、それらをわざわざ屋敷に戻っておじいちゃまに得意げに見せていた、幼い頃のミノンの面影がどことなく残っており、
「いかにもお前とコルティナらしい話だ。もっとも裏返せば、それだけ思い残す事なく試合そのもので全てを語りつくした、という事でもあるのだろう」
おじいちゃまは報告に耳を傾けながら、どんなに大きくなろうとも、自分にとってこのやんちゃな孫娘はあの頃のままなのだ、とどこかしみじみしている様子。
「エーレとの一戦がヒリつく様な大接戦だとすれば、コルティナとの一戦は最後まで歯車のかみ合わない大苦戦でした。嫌な所へ嫌なタイミングで次々と打ち込まれ続けて、試合らしい試合をさせてもらえなかったのですから」
そんなおじいちゃまの感慨など分かる訳もなく、嬉々として大会の感想を語るミノン。
「ああ、確かにコルティナにしては珍しく先手先手と攻めていたな」
「しかも逆襲出来ない様に攻めて来るんです。もう、こっちの動きが完全に読まれてました」
「『ふわふわ分析魔』の面目躍如と言った所か。だが、お前もよく最後まで防ぎきった」
「もう、最後は頭の中が真っ白になって無我夢中でした、気が付いたら一本取ってた、って感じです」
「見事な一本だったよ。お世辞や身内びいきでなく」
「ええ、正に会心の一撃でした。ああいう試合が出来たあなたが、心底羨ましい位です」
隣で微笑みながら、シェルシェも妹を褒め称える。
「いや、そう言われても、あまりピンと来ないんだ。アレをもう一度やれと言われても多分出来ないし」
二人から褒められてもなお、どこか釈然としない表情のミノン。
「ふふふ、まあ、いいでしょう。コルティナの事ですから、二度と同じ手は通用しないでしょうし」
シェルシェはそう言って、ミノンの肩を、ぽん、と叩き、
「恐るべきは、コルティナがわずかな間にあなたをあそこまで分析していた事です。当然、次のレングストン家の大会までには、分析の精度をかなりの所まで上げて来るでしょう。覚悟しておきなさい、ミノン」
と言い含める。
「覚悟は出来てる。こっちだって、今日の試合で得た物を活かして戦うつもりだ」
屈託のない笑顔、もしくは何も考えてない様に見える笑顔で答えるミノン。
「それはそうと、パティの事なんだが――」
話が一段落した所で、おじいちゃまが恐る恐るその場にいない三人目の孫娘の行方について尋ねると、
「今日もエーレはパティを警戒して、大会が終わるとすぐに会場を後にしました」
妹とは異なる、どこか意味ありげな笑顔で答えるシェルシェ。
「なら、いいのだが」
「ですがパティも、それを見越して会場出口で待ち伏せしていたので」
「パティも学習したか。悪い方向に」
「さらにそれを見越して、エーレには『別の出口から目立たないように脱出してください』と密かに伝えておきました。結果、無駄に待ちぼうけをくらったパティは今、自分の部屋でふて寝しています」
「まあ、今回も無事に済んでよかった、と言うべきか」
おしとやかで庭で摘んで来た花をおじいちゃまにプレゼントしてくれた幼い頃のパティはもうどこにもいない、という残酷な事実に一抹の寂しさを覚えるクぺ。




