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甲冑が没落貴族に構っている隙に、大学教授と残り四人となった学生の計五人は、全員ちゃっかり応接室の入口近くに移動していた。目の前でとんでもない事が起こっている割に、案外冷静である。
「皆、ここを出るんだ!」
大学教授はそう言って学生達を逃がし、自身も廊下に出ると、ドアを閉めてノブを押さえる。
「私が奴を閉じ込めている間に、電話を探して、警察へ連絡を――」
と言い終わらぬ内に、バキッ、という音と共に、閉まったドアを突き破って飛び出した剣先が、大学教授の鼻先をかすめた。ドアは頑丈そうに見えたが、実は安普請らしい。
思わず手を放し、ドアから離れる大学教授。
押さえる人がもういないのだから、普通に開ければいいものを、甲冑はその後もドアを剣で突き破りまくり、最終的に大きく開いた隙間から、窮屈そうに身をよじって応接室から出て来た。何かすごく頭悪そう。
もちろんそんな事をしている間に、大学教授と学生達はその場から逃げている。
場面替わって、玄関ホール。
「ダメです、電話が通じません!」
小さなテーブルの上に置いてある、アンティークなダイヤル式電話の受話器を持った女子学生が、大学教授にそう訴えた。
「どうやってもドアが開きません!」
玄関の大きなドアのノブをガチャガチャいわせつつ、男子学生も訴える。
と、そこへ後を追って来た甲冑が現れ、一行は別の廊下から逃げたものの、突き当たって右に曲がれば、何とそこは行き止まり。
そうこうしている間にも、甲冑の、カシャン、カシャンという足音がゆっくりと近づいて来る。
どうしよう、どうしよう、とパニックになりつつ、ふと行き止まりスペースの隅を見れば、そこには幅の狭い赤いカーペットがグルグル巻きにされて立てかけてあった。
大学教授は急いでこれを曲がり角をすぐ入った所の床に広げ、男子学生二人に、
「奴がここに足を乗せたら、全力で引っ張るんだ!」
と指示し、三人でカーペットの端を持って待ち構える。その姿はちょっと間抜けだが、表情がやたら真剣なのがおかしい。
やがて、甲冑が角を曲がって姿を現し、カーペットの上を歩き出した瞬間、
「今だ!」
という大学教授の合図と共に、カーペットが勢いよく引っ張られ、清々しい程に思いきりすっ転ぶ甲冑。
その様子を、ずっとハラハラしながら見守っていたエーレの横で、笑いのツボにハマったコルティナは、
「もう勘弁して! バナナの皮で滑るお笑い芸人じゃないんだから!」
と、涙を流して爆笑していた。




