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ほぼパティ一強だった中学生の部とは対照的に、三年ぶりにミノン、エーレ、コルティナという三強が揃い踏みとなる高校生の部が開催された当日、大会会場に集まった多くの観客達は、三年前のこの同じ御三家令嬢対決を思い出し、
「三年前もでかかったが、ミノンはまた一回りも二回りも成長してるなあ。流石、『巨大怪獣』の二つ名はダテじゃない」
「エーレは三年前からほとんど成長してないのにな。あの二人が一緒に出てると、親子大会を見てる気分になって来る」
「コルティナの外見は歳相応だが、普段の数々の奇行のせいで精神的に成長してる感じがしない。CMに出演した事で、ますます奇行に拍車がかかった感がある」
三人の成長した姿、もしくは成長していない姿に、時の流れを感じさせられていた。
「とても同じ歳には見えないけど、エーレとコルティナはもう十八歳だぜ。『天才美少女剣士』って肩書きも、今年がギリギリ最後だろ」
「そう思うと何か寂しいな。子役がしばらく見ない内に大きくなってたのを知った時、軽いショックを受ける感じと似てる」
「どんなに美女やイケメンに育ってたとしても、『もう可愛かったあの頃の子役はどこにもいないんだ』と思うと、妙に寂しくなるよな。大人の勝手な感想だが」
本当に勝手な感想を言い合う大人達。
「いや、いるさ。俺達の心の中に!」
「そうとも、エーレたんは、俺達の心の中で永遠のツンデレ美少女として生きるんだ!」
「いくぞ、いつものツンデーレコール! ツンデーレ!」
「ツンデーレ! ツンデーレ!」
突然ツンデーレコールを始める一部のダメな大人達。
「やかましいわっ! いい加減飽きてくれっ!」
言葉と態度には出さないが、心の中で言い返すエーレ。
「うふふ、エーレは相変わらず大きいお友達に大人気だねー。でも、あの熱狂的なエーレ信者の人達も、全盛期に比べて、少し数が減ったかなー」
人の不幸を面白がりつつも、冷静に客席を観察するコルティナ。
「でも、まだまだ世間一般のエーレ人気は衰えてないでしょう。あの可愛いお風呂CMも好評だった事だし」
ララメンテ家の選手の一人が、コルティナに異を唱える。
「世間一般の人は、中々大会会場まで足を運んでくれないからねー。まず、ああいう熱狂的なファンの動向がどうしても気になるんだよ、客商売の娘としてはー」
「客席で妙な真似をする人達が減るなら、いい事じゃない?」
「それは私への当てつけかなー?」
「うん。分かってくれたみたいで嬉しいわ」
「分かってないねー。楽しい応援も、選手を鼓舞するのに必要なんだよー」
「恥ずかしい応援、の間違いじゃなくて?」
「今は恥ずかしくても、いつかきっと楽しい思い出になるよー。『ああ、若い時、みんなであんな恥ずかしい事もやってたっけ。懐かしいなあ、あの頃は楽しかったね』って具合にねー」
「何でそう、いい話にすり替えようとする」
「それが青春と言うものだからだよー」
「ごめん、意味分からない」
「うふふ。そうだねー、十年位経ったら、皆で集まって今日の事を振り返ろうよー。多分、『コルティナの言う事が正しかったです。ナマ言ってすみませんでした』って、言ってくれると思うよー」
「絶対に言わないから安心して」
試合前にそんな軽口を叩いて笑い合い、リラックスする、いつものコルティナとその仲間達。
ちなみにこの時「絶対に言わないから」と断言した選手は、七年後の女子会でしたたか酔った挙句、「あの頃にもどりたいよー!」と言って泣き出し、周囲に慰められる羽目になるのだが、もちろん現時点でそんな事は全く予想すらしていない。
それが青春と言うものである。




