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逃げ足道場 番外編 ~ウチの女当主が怖過ぎる件について~  作者: 真宵 駆
◆◆第十四章◆◆ 圧倒的な才能と最新鋭の技術と天賦の洞察力との三つ巴戦について

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406/638

◆406◆

 マントノン家の書斎で、現当主にして孫娘のシェルシェから今日の大会についての報告を聞いていた、前々当主にして祖父のクぺは、


「『アウフヴェルツの最新機器を使った特訓』も、それほど効果は無かった様だな。むしろレングストン家の選手達にとって、悪影響を与えるだけに終わった様な気さえする」


 レングストン家に対してやや辛口な意見を述べた。


「確かに今日の試合を見る限り、レングストン家の選手達はことごとくタイミングが合わないまま自滅していった感じですね」


 シェルシェもクぺに同意する。


「現時点でVRとやらは、まだまだ剣術の稽古に利用出来るレベルではない、という事か」


「まだ断言は出来ません。おそらくそのVRに使用されているのは去年の試合のデータでしょう。今日取得した最新のデータをそこに反映させたならば、また話は違って来ます」


「ふむ。私はVRについてよく知らないのだが、要は実体のない幻影を相手に戦う様なものなのだろう?」


「はい、こちらの攻撃が当たっても何の手ごたえもありませんし、向こうの攻撃が当たっても痛くもかゆくもありません。それがVRです」


「打ち合いの衝撃がなければ素振りと変わらん。まともな稽古にはなるまい」


「ええ。ですが、VRにはVRならではの利点があります。どこまでアウフヴェルツの技術が進んでいるかにもよりますが、剣士の動きを立体的に捉える事にかけては中々の優れ物です」


「私の様な古いタイプの人間には、今一つピンと来ない話だ」


「ふふふ、今や映画も3D上映が珍しくない時代です。おじい様も、今まで3D映画を観た事はおありでしょう?」

 

「二十数年前だったかな、サメが襲ってくる3D映画なら映画館で観た事がある。3Dの演出に力を入れる余り、映画そのものの出来は惨憺たる有様だった記憶があるが、中々の迫力だった」


「その襲ってくるサメの動きを、色々な位置と角度から、心行くまで自由に観察出来るとしたらどうでしょう?」


 クぺは二十数年前の記憶を思い起こす様に、椅子の背にもたれてしばし目を閉じ、


「なるほど。それは便利だ。ただしあくまでも、そのサメの動きが本当のサメと同じものなら、の話だが」


 何とか一応の理解は出来た様である。


「去年までのデータを元にして作り上げたパティと、今年の実物のパティの動きにズレがあるのは仕方ありません。そのズレを今日の試合のデータで修正されてしまったとしたら」


「あるいはパティも苦戦を強いられるかもしれんな。だが、そう理屈通り上手く行くものかな?」


「そういう意味で、今年はエディリアの剣術業界にとって大きな転換点となる年かもしれません。残りの二大会、特に最後のララメンテ家の大会は要注目です」


「あるいは剣術業界のVR元年となるか。もっとも、そう簡単にやられるパティでもあるまい」


 そこでふと、表情に暗い翳を落とし、


「で、大会の後、パティはまた何かエーレに失礼な事をやらかしたのか?」


 その場にいないパティについて、シェルシェに恐る恐る尋ねるおじいちゃま。


「ふふふ、今日はレングストン家の人達は早々に会場を後にしたので、エーレとパティが接触する事はありませんでしたよ」


「そうか。なら良かった。姿が見えないから、てっきりいつもの様に粗相を働いた罰で、地下室に監禁されているものだと」


「パティはAVルームで3D映画を鑑賞しています」


「3D映画? レングストン家のVRへの対策か?」


「いえ、ヴォルフの近況を3D映像で撮ったものです。おじい様にVRについて説明するのにちょうどよいと思って用意させておいたのですが、その必要はなかった様ですね」


「いや、必要だ。ぜひ観たい。今すぐ行こう」


 おじいちゃまは椅子からすっくと立ち上がり、シェルシェをせき立てた。よく分からないVRより、よく分かる可愛い孫の近況である。


「では報告の続きは、映像を観ながら行いましょう」


 そんなおじいちゃまを見ながら、くすくすと笑うシェルシェ。

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