◆404◆
クジ運に恵まれてパティと剣を交える機会を得たレングストン家の選手達は、この「大道芸人」と称される変幻自在の美少女剣士に対抗すべく、昨年までのデータを分析して得た多彩な攻略法を駆使して挑み、
「ああ、またやられた。カウンター狙いが裏目に出てる」
「リズムが合ってない。技を出す前から既に殺されてる」
「奇襲が功を奏して、何とか一本取れたのに……一度上手く行った技はもう二度と通用しないのね」
その圧倒的な戦力差の前に次々と敗れ、その度にどっと沸き上がる勝者パティへの歓声の中、レングストン家の応援団からは無念のため息が漏れる。
「でも皆、あのへんた、じゃなくてパティを前にして委縮している様子はないわ。今はそれだけでも良しとしましょう」
意気消沈する応援団の中、変態に身内の選手が負けて行く悔しさを表に出さず、気丈な態度を保つちっちゃなエーレ。
しかし、その変態が試合後に相手選手と健闘を称えるべく、抱き合うと見せかけて痴漢行為に及ぶ場面だけは、
「エーヴィヒに頼んで、あの変態の迷惑行為をしっかり録画してもらうべきだったかしら。通報用に」
つい、義憤の衝動に駆られるエーレ。もっとも、観衆はパティの美貌と剣才に惑わされているので、迷惑行為どころか、麗しきスポーツマンシップの表れとしか見ていないのだが。
「エーヴィヒさんにそんな事をしている余裕はないだろう。次のウチの大会までに、今日のパティのデータを分析してもらわなければならないし。可能なら例のVRへの反映も間に合って欲しい所だ」
隣にいた親友のティーフが口を挟む。
「そうね。エーヴィヒには過労死する位働いてもらわないと」
「また、そういう言い方をする。お世話になってるのに」
「冗談よ。でも、剣術のデータ分析だけに専念してくれたらいいんだけどね。私に対するストーカー行為は抜きで」
そんな事を言って苦笑いする表情すら、別の場所からエーヴィヒのビデオカメラがバッチリ捉えていた事を、エーレは後で直接エーヴィヒ本人から知らされることになる。
「そういう余計な事はしなくて結構です、エーヴィヒさん! て言うか、やめてください!」
抗議するエーレに、爽やかな笑顔を返し、
「どうぞ、ご心配なく。データ分析の作業に支障はありません。むしろ色々捗ります」
「どういう意味だっ!」
エーレの為なら過労死も厭わないエーヴィヒだった。