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いかにも子供の大会らしいほのぼのとした雰囲気の中、男子女子共にマントノン家の選手が外部の選手を退けて優勝し、主催者側の面目を保つ形で小学生の部が無事終了する。
そんな純朴な光景が嘘の様に、次の中学生の部では、まったく子供の大会とは思えない規模の巨大な会場といい、その巨大な会場のキャパを埋め尽くす観客の数といい、試合が始まる前から渦巻く異様な熱気の中で、
「実際に見るとすげえな。中学生の大会に一日でこれだけの客が集まるのか」
「観客から一人ずつジュース代をもらうだけで一財産だぜ」
「チケット一枚を大体ジュース百杯分としても……駄目だ、そんな大金手にした事ねえから、全然実感が湧かねえや」
警備員のバイトに来ていた「全国格闘大会推進委員会(仮)」のメンバー達も色々と思考が追い付かなくなり、ジュース何杯分のイメージを使って大会規模を把握しようとするものの、見事失敗に終わっていた。せめてもっと単価の高い物を使うべきだろう。
一方、観客達はこの狂乱じみた大盛況にも慣れており、
「今年の中学生の部は、パティの一人舞台だな」
「どうだろうな。レングストン家の選手はアウフヴェルツ社の最新機器で秘密の特訓をしてるって噂だぜ」
「ララメンテ家は緒戦は捨ててデータ収集に徹するのかな、やっぱり」
様々な事前情報から、今日の試合展開を、ああでもないこうでもない、と妄想する事に余念がない。
その妄想の中心軸にいる「大道芸人」ことパティ・マントノンの最初の試合が行われ、難なく二本先取して勝利すると、複数面で同時進行している他の試合そっちのけで、会場全体から歓声が湧き上がった。
「パティ・マントノンが勝ったのか」
会場の外にまで聞こえるその歓声に、屋外で二人一組で警備員をしていた委員会(仮)のメンバーの一人が驚き呆れる。
「もう全部パティ一人でいいんじゃないかな」
もう一人のメンバーも、そんな軽口を叩いて笑う。
「もしパティが途中で敗退したらどうなるんだろう」
「その直後から、観客が一斉に帰り出したりして」
「何しろ数万の観客だからな。休憩中の奴らに応援に来てもらわんと、この辺りがパニックになりかねない」
「で、逆にこの巨大会場の客席は一気にガラガラになると」
「勝ち残った選手がすごく可哀そうなんだが」
「やっぱり、スター選手の影響力は大きいな。俺達も全国格闘大会が実現するまでに、スター選手を用意しないと」
「そこそこ美少女で、血筋が良くて、格闘が滅法強くて、エディリア国民からも大人気な選手をか」
「ああ、一人でいいから」
二人は一瞬沈黙した後、顔を見合わせて、
「いねえよ、そんな奴!」
同時にツッコミを入れ、腹を抱えて笑い合った。
その条件に限りなく近い人物が全国格闘大会に出場参加を表明するのは、まだまだ先の話である。