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お宝写真を無慈悲に消去されたショックで再び石化したパティをそのまま放置し、ヴォルフを男物の服に着替えさせてから一緒に部屋を出たシェルシェは、長い廊下を歩きながら、
「パティにも困ったものです」
と言って、ため息をついた。
マントノン家三姉妹の三女パティ・マントノンと言えば、世間のイメージでは、優れた剣術家であると同時に、
「綺麗な人」
「ちょっと派手だけど、品がある」
「ナイフとか、小さい刃物の扱いが上手」
「メディアへの露出が多い」
「子供や動物に優しい」
「トークも卒なくこなしている」
などと、良い意味で武芸の名家のお嬢様タレントと認識されている節がある。
間違っても、「これも武芸修行よ」と言って年の離れた弟を騙し、女の子の服を着せてデジカメで撮影した挙句、その服を切り刻んで倒錯した喜びを覚える変質者などではない。
「こんな醜態が世に知られたら、パティの扱いは三流お笑い芸人の位置まで落ちるでしょう。パティを大事に思うのなら、パティの言う事を唯々諾々と聞いてはいけませんよ、ヴォルフ」
「はい」
「それに『マントノン家三姉妹』は、もはやそれ自体、確固たるブランドイメージなのです。その一人であるパティのイメージダウンは、マントノン家全体のイメージダウンに繋がります」
「はい」
「世間の抱くイメージなど、真の武芸者ならば気にするべきではない、と思うかもしれませんが」
シェルシェが不意に立ち止まると、ヴォルフも同時に立ち止まる。よく訓練されている。
シェルシェはヴォルフの方を向いて微笑み、
「私達は武芸者であると同時に商人なのです。くれぐれもイメージをおろそかにしてはいけません」
「はい」
そんなシェルシェとヴォルフが一緒にいる所を見て、多くの人が抱くイメージは、犬の訓練士と警察犬であったのだが。
他人が自分をどう見ているか、当の本人は案外気付いていないものである。